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 そういった複雑な要素が絡み合ったキャラクターが「ドラマ東京裁判」のウェッブ裁判長という人間くささあふれる存在だ。日本では、こうした多面的なウェッブ裁判長の人格や法曹人としての能力について、詳しく分析されたことはなかった。

 史実として、ウェッブ裁判長は、こうした内面の苦悩と戦いつつ、公式判決書を書いた多数派判事たちから疎外され、独自の長大な判決書を書き上げるが、最後の最後でそれを封印し、多数派の判決書を裁判の結論とすることを受け入れるという度量を見せる。

当時のウエッブ裁判長

 しかし、その「お蔵入り」になったウェッブ裁判長の独自判決書に書かれた日本の戦前の歴史への理解は、「日本の戦略は終始一貫したものではなく、段階的に進行し、最後ははからずも世界を相手に戦うことになった」という主旨のもので、「最初から世界征服を目指した共同謀議があった」と考える多数派判事の判決よりも、説得力のあるものだった。

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 こうした経緯も、今回のドラマでは余すところなく脚本に表現したし、それをオーストラリアにルーツを持つ俳優ジョナサン・ハイドは見事に演じきってくれた。

バングラデシュ取材で分かったパル判事の「内面」

 そして、判事を演じた俳優たちの中で最も国際的な知名度が高い一人がインド代表のパル判事を演じた名優イルファン・カーンだ。ハリウッド俳優として、アカデミー賞受賞の「スラムドック$ミリオネア」そして「ライフオブパイ/トラと漂流した227日」で重要な役柄を演じた。そして今年4月、残念なことに50代半ばの若さで亡くなったことは日本でもニュースとなった。

パル判事=イルファン・カーン(「NHKスペシャル ドラマ東京裁判」より)

 パル判事と言えば、「被告全員無罪」の少数意見を出したことで日本では信奉者も多いキャラクターだが、日本軍の残虐行為は厳しく批判した一面もある。そして、インド人として欧米の植民地主義に対する怒りも秘めていた。盟友となった11人の中の最年少判事でオランダ代表のレーリンク判事と、第二話の中盤で座り込んで語り合うシーンのセリフに私はこの問題を凝縮させた。パル判事に影響され、この裁判は公平性を欠くのではないか、と感じ始めるレーリンク判事に、パル判事は「オランダもまた、植民地支配をする側なのではないか?」と問いかける。レーリンク判事は思わず、オランダ人として自国の立場を弁護する、だが、その内心では……というシーンだ。

当時、東京の裁判所執務室で過ごすパル判事

 世界中で視聴されるこの国際ドラマで、私が世界の人に感じてもらいたかったことの一つがこの「植民地主義」の問題だ。確かに戦前・戦中の日本の帝国主義・植民地支配は断罪されて当然だ。だが、その発想のオリジナルは欧米の植民地主義にあった。遅れてやってきた模倣者がより悪いのだろうか? 先行した国々が内包するこの問題に、欧米のみなさんは向き合っていますか? という問いかけもまたこのドラマが持つ数多いテーマの一つである。