一方、永瀬拓矢叡王は……
永瀬は「体調はいつも通り。関西で午後から指すことはあまりないので新鮮です。8月に入って叡王戦も佳境に入りました。皆様にいい将棋をお見せできるように頑張りたい」と話した。名人戦と併行する豊島の対局も多いが、永瀬は永瀬で9か月で12局指すB級1組順位戦が開幕している。本局の2日前には木村一基王位との対局が千日手になり、指し直し局に勝ったのは午前1時31分。つまり、本局が行われる前日の未明に感想戦を終え、帰宅している。そして大阪に移動したわけで、こちらもハードスケジュールだ。
両対局者が5階の対局室「御上段の間」に揃い、駒を並べる。上座の永瀬は和服姿で、蜻蛉の絵が無数にあしらわれた羽織を着ている。豊島はつゆ草色の羽織に身を包んでいる。大橋流でゆっくりと駒を並べると、豊島は9枚の歩を1枚ずつ触って位置を正していた。
立会人の阿部隆九段の合図で対局開始。先手の豊島はスッと手を伸ばし、▲2六歩と指した。
大阪の中心地にある、関西将棋会館
関西将棋会館は1981年に竣工した5階建てのビルで、JR大阪環状線の福島駅から歩いて3分ほどのところにある。福島駅は大阪駅から1駅で、歩いても15分ほど。大阪市の中心部に近いところに将棋の聖地がある。両隣はマンションで、向かいにはコンビニ。
JR東海道本線が走る高架はすぐそこにあり、電車の通過音、車のエンジン音、クラクション、他にも様々な音が対局室まで届く。慣れてしまえば気にならない。しかし近隣の専門学校のマーチングバンドが「六甲おろし」を演奏しながら行進したときには、笑いたくても笑えない微妙な雰囲気になったらしい。
1階は売店と飲食店。2階は道場。3階は事務所や棋士室といった関係者用の部屋があり、4階には2部屋の和室とミーティングルーム。そして5階に対局室がある。
対局室は、かつて4階に設けられていた将棋博物館の展示物のひとつとして、江戸城本丸御黒書院を模して作られた。本局が行われている御上段の間は、3つある対局室のうち最も格が高い部屋。タイトル戦や番勝負を関西将棋会館で行うときは、この対局室が使われる。叡王戦でも、今期の挑戦者決定戦三番勝負第2局(▲渡辺明三冠-△豊島将之竜王・名人、豊島勝ち)が指された。