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「小さい頃から有名人だった」豊島将之竜王・名人は“ホーム”で連敗脱出なるか

「小さい頃から有名人だった」豊島将之竜王・名人は“ホーム”で連敗脱出なるか

第5期叡王戦七番勝負第6局・観戦レポート #1

2020/08/09
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「和服、過ごしやすいんですけどねえ。現代っ子なんですね」

 対局は横歩取り青野流に進んだ。「青野流が優秀だから、後手が横歩取りに誘導することが減ったんですよね」と阿部九段。18手目△6二玉が小さな工夫で、従来は△5二玉が主流だった。△6二玉は青野流特有の▲3六歩~▲3七桂~▲4五桂の攻めに備えて、玉を少しでも戦場から遠ざけている意味がある。

 

 続く▲3六歩に△8二歩と永瀬が指したのを見て、阿部九段は「難しい手だなあ。でも面白い」と声を弾ませた。△8二歩は、後手の飛車が8筋からいなくなったときの▲8四飛を先に受けた手。つまり「次は何がなんでも△7六飛と横歩を取りますよ」と言っている。

 25手目▲3七銀までの消費時間は、豊島が3分、永瀬が7分。つまり対局開始から10分で進んだ。「(2日制タイトル戦2日目開始時の)指し手再現みたい。早い」と、阿部九段は驚く。

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25手目、▲3七銀まで(ニコニコ生放送より)

 そこで7分考えて△7五飛と引いたところで永瀬は席を外し、和服からスーツに着替えて戻ってきた。和服姿で立会人を務める阿部九段は「和服、過ごしやすいんですけどねえ。現代っ子なんですね」と首を傾げる。夜にニコニコ生放送にゲスト出演した阿部九段は「久々の和服だったので着付けしていただきました。やはり和服はいいですね」と話していた。

全て「勝ち数による規定」で九段に

 阿部九段は7月15日に九段に昇段したばかりで、関係者から何度も祝福されていた。特筆すべきは五段から九段までプロ入り後の全ての段位で「勝ち数による規定」を満たして昇段したことで、これは史上初だ。積み重ねた白星は810になる。奨励会に入ったのは1981年。関西将棋会館が大阪市阿倍野区北畠から現在地に移る直前で、「旧連盟」を知る最後の世代になる。

立会人の阿部隆九段

「17歳で四段になって、36年目です。あっという間でした。自分としては800勝のほうが嬉しかったけど、九段になって周りの方がたくさん喜んでくれたのはうれしかったです」と話す。思い出深いのは2002年の第15期竜王戦、挑戦者決定戦三番勝負(中田宏樹八段と指し、2勝1敗で挑戦権獲得)。「気力が充実していて、自分の気持ちが盛り上がっている中で指せました。期するものがありました。通算1000勝ですか? それは考えていないけど、無理と決めつけずに目指す気持ちでやらないといけないですね。将棋も何でもありの世の中になってきました。何が正しいかわからない時代だけど、精一杯やっていきたい」。