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郷田九段は「どちらも持ちたくない」
夕食休憩が終わると、永瀬は飛車を打ち込んで竜を作った。豊島側は角と金の両取りをかけて金を手にし、その金を中段にべたっと打って後手の竜を押さえ込んでいく。
△5七桂(88手目)は角を5七に呼び込んで攻めをつなげようとしている。先手は3五金がぼろっと取られる変化もあって受けが難しくなってきた。後手の攻めも細いのか、郷田九段は「どちらも持ちたくない」とつぶやく。▲5七同角に△6五桂打が攻めの継続を図る手で、▲同歩△同桂に角を逃げるのは△5七銀と打ち込まれて先手陣が崩壊する。本譜は▲6八角打と、駒を足して受けた。阿部九段は「これは長い。本当に長い」と言った。豊島が攻め合いに出たらすぐに終わりそうな状況だが、豊島は息をひそめるように粘り強く指している。
しかし永瀬の攻撃の手は止まらない。20時33分、98手目△7六歩を見た阿部九段は「痛い」と自分の対局で食らったように顔をしかめた。▲同銀は△5五歩と角頭を攻められる。「△5五歩まで指されると筋に入っています」。
「筋に入っている」とは、変化の余地がないままに形勢の差が開いていく状況のことを指す。「もう、跳ねるしかない」と阿部九段が言うと同時に豊島は▲6五桂と跳ねた。ここからは両者一分将棋。「久々に将棋を見ている感じがして楽しいですね」と阿部九段。一分将棋になっても、どちらが勝ちかわからない熱戦だ。