文春オンライン

2020/08/17

レイプによる妊娠の中絶も、通達で

 次に、母体保護法14条1項2号のレイプによる妊娠の問題である。 

 先に挙げた末広敏昭著「優生保護法 基礎理論と解説」によれば、「暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」は、「非意思による性的結合の結果妊娠した場合」の趣旨である。 

 確かに、母体保護法14条1項2号の定め方は、強姦罪や準強姦罪と同じではない。同じ概念は徹頭徹尾同じ言葉を使い、違う言葉を使うときは違う概念を指すのが、法解釈の「基本のき」である。この基本からすると、母体保護法14条1項2号は、強姦罪で要求される「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行脅迫」と異なる概念であり、先述の趣旨からすれば強姦罪よりも幅のある解釈が可能である。

 それにもかかわらず、通達により、「なお、本号と刑法の強姦罪の構成要件は、おおむねその範囲を同じくする。」と狭めてしまった。通達で解釈の範囲を狭めて、強姦罪や準強姦罪と同じ意味にしてしまっていただけなので、通達で、実情に合わせた形に広げてやればよい。 

 従前から、DVによる妊娠は(保護命令が出ている場合は)中絶手術に配偶者の同意を要求しない運用となっている。また、監護者性交等罪が新設されたことからもわかるように、「非意思による性的結合」が、強姦罪や準強姦罪の場合に限らないことも、現在では明らかになっている。 

 以上のような、「本人の同意なき性交によって、妊娠した場合、加害者の同意なしに中絶手術をすることができる」旨の通達を出すことが実情に適っている。   

 指定医の負担を軽減するためには「同意なき性交による妊娠であることをどのように確認すればよいのか」というところまでケアする必要があろう。 

 通達で、「警察職員、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの支援員、配偶者暴力相談支援センターの職員が同行した場合は、母体保護法14条1項2号の『暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの』であることについて、指定医はそれ以上の証明を要求しなくてよい」旨を示すことが望まれる。 

今後、母体保護法はどうあるべきか

 この記事では、母体保護法14条1項2号を、同意なき性交による妊娠の場合に広く適用するように求めてきた。しかし、そもそも性交に同意することと、妊娠に同意することは違う。母体保護法14条1項2号自体が、前時代的であり、改正が必要である。 

 また、今回、この問題が取り上げられた際に「そもそも中絶手術の際に、男性側の同意が必要であることに驚いた」という意見がSNSで散見された。 

©iStock.com

 中絶手術に男性側の同意を要件とすることは、確認することができるだけでも40年近く前から批判がある。実際に、母体保護法14条1項1号の「母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に、配偶者が中絶手術になかなか同意しない間に、母体の健康を損なっている例もよくある。 

 40年近く前から批判されている条項を、今「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を政府が打ち出し、「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」が開かれている現在なお維持する合理性はないだろう。 

 母体保護法の改正を含めた議論が高まることを望む。 

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