今年の6月、弁護士団体「犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)」が日本医師会に提出した要望書が大きな話題を呼んだ。
弁護士らの調査で、レイプ被害者が中絶手術を望んだ際、医師がレイプ加害者による中絶手術の同意を求めるケースが次々と報告されたので、改めるよう要望したのだ。
なぜ、中絶手術の現場で、このような驚くべきことが行われていたのか。性犯罪の被害者側弁護士として活動する筆者が解説する。
中絶手術の2つの法的根拠
中絶手術の法的根拠とはなにか。妊娠中絶手術について、2つの例を検討してみよう。
まず、結婚している女性が妊娠したが病気になり、このまま妊娠を継続するとお母さんの命に関わるケース。このような場合、病院は、次の同意書に、妊婦本人と配偶者の署名をもらって、中絶手術をする。
法的根拠を説明すると、母体保護法14条1項1号「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に当たるから、「本人及び配偶者の同意」を得て、妊娠中絶手術をすることができるのである。
では、道を歩いていたら見知らぬ人にレイプされた場合はどうか。母体保護法14条1項2号「暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」なので、やはり妊娠中絶手術をすることができる。
この場合も、母体保護法14条1項の文言だけを見れば、配偶者の同意が必要なのだが、厚生労働省に確認したところ、配偶者の同意は不要という運用をしているとのことだ。レイプによる妊娠なのだから当然であろう。厚生労働省の解釈は正しい。
では、現場の運用は?
では、実際に産婦人科では厚生労働省の解釈どおりに運用されているのだろうか。
答えは「NO」である。
レイプの場合であっても「加害者の同意を得よ」と要求する医師は、実際には、非常に多く、ほとんどと言ってよい。警察官が付き添ってもダメ、ワンストップ支援センターの支援員が付き添ってもダメと、あくまで同意書を要求する医師も少なくない。