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 彼の死去の際、日本の各メディアで「親日家」の側面ばかりがクローズアップされたのもそうした事情ゆえだ(ちなみに台湾国内や欧米諸国では「民主化の父」の側面のほうが強調された)。日本では保守派を中心に、親日的な「哲人政治家」李登輝を、さながら究極の聖人であるかのようなイメージでとらえる風潮もかなり根強い。

 だが、理想化された李登輝のイメージを持って台湾に行くと拍子抜けしやすい。特に彼の現役時代を知る世代の、台北あたりの中産階層や知識層には「最初は良かったけれど、金権政治(黒金)問題が出てケチがついた」「国民党の人間だったのに途中から民進党の味方に変わった」と是々非々の意見を話す人も意外と多い。もちろん熱狂的な李登輝支持者も大勢いるが、毀誉褒貶は相半ばしている。

8月7日、台北駐日経済文化代表処の敷地内に設けられたポストイットのメッセージ掲示板。在日台湾人の支持者からのメッセージも数多く寄せられていた

台湾人が選ぶ「歴代総統ランキング」では1位になれず……

 事実、2018年6月に民進党系の『美麗島電子報』がおこなった「歴代総統のうち任期中に最も台湾の価値を保ち代表することができた総統は?」という世論調査で、43%の支持を集めて1位になった人物は、李登輝ではなく蒋経国だった。蒋経国は任期中に戒厳令を解除して報道の自由や野党結成を容認し、台湾人の人材を大胆に抜擢して李登輝時代の民主化の基礎を作った人物である。

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 この歴代総統ランキングは、2位が李登輝13.8%、3位が蔡英文11.2%、4位が馬英九で9.5%、5位が陳水扁の7.4%と続く。李登輝は2位だとはいえ、なんと台湾国内での評価は(彼の生前の調査であることは割引いても)、現職の蔡英文とほぼ同程度でしかない。

 李登輝は体制を民主化させ、経済の高度成長を支えた。プラグマティックな外交姿勢で台湾の国際的存在感を高め、大震災が起きても的確な非常事態対応をおこない、北京からのミサイルの恫喝を撥ねのけて総統直接選挙に勝利した。なのに、国民の評価はなぜか意外と高くない(もっとも、李登輝が亡くなってから弔問者が絶えないことからもわかるように、彼の存在が「歴史」に変わることで今後の評価は上方修正されていくとみられるが)。

2012年1月、総統選に立候補した当時の蔡英文を支持する李登輝。なお、蔡はこの選挙では馬英九に敗北した。 ©AFLO

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 李登輝の評価が是々非々だった理由は、民主化後に得票率54%を集めて総統に当選した1996年以降、つまり総統最後の4年間に問題が噴出したためだ(逆に日本国内の李登輝礼賛書籍は、この4年間についての言及が極めて弱い)。