しかし今思えば、これは彼らが当時から様々な役柄を演じ分けられる芸達者であったことの証左でもある。一人で老若男女問わず多様な人物を演じる落語家が、カドのないつるりとした風貌をしているのにも近い。
彼らは際立った個性がなかったからこそどんな作品や役柄でも自然な演技ができ、業界関係者の間で高く評価された。だから30歳を超えるまで役に恵まれ続けてきたのだ。しかし、それゆえにお茶の間にはなかなか認識されなかった。
どれだけ業界内評価が高いとはいえ、芸能界は“売れてナンボ”だ。賀来は長年こうした状況に忸怩たる思いを抱えていた。同世代俳優には、佐藤健、岡田将生、柳楽優弥、三浦春馬、池松壮亮、松坂桃李、東出昌大、三浦翔平……と綺羅星のような名前が連なる。賀来は彼らの活躍と自分の立場を比べては悶々としていたようだ。そんな状況を変えようと飛び込んだのが “舞台コメディー”だという。
2020年1月8日に「ごごナマ」(NHK)に出演した際に、かつて賀来が福田雄一監督に「今後、僕はどうしていけばいいんですか」と悩みを打ち明けると、「お前くらい舞台で喜劇をやっている役者っていうのは正直いない。だからそこを強みにしていけばいいんじゃない」とアドバイスされたことが大きな転機となったことを語っている。
2011年、賀来は「スマートモテリーマン講座」で初舞台を踏む。ここから賀来が身につけていったのが役者としての“クセの強さ”だ。
コメディー舞台で培った“クセの強さ”
かつて地上波テレビで見る賀来は、長身&小顔のイケメンぶりと、育ちの良さそうな雰囲気からか「優しい兄」「エリート」などの役を演じていることが多かった。後に結婚する榮倉奈々との出会いになった「Nのために」(TBS系・2014年)ではエリート商社マン、NHK連続テレビ小説「花子とアン」(2014年)では家族思いで優しい花子の兄、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」(2015年)では若き天才剣士・沖田総司を演じている。
しかし舞台での賀来は違った。福田雄一監督のコメディーミュージカル舞台「『モンティ・パイソンのSPAMALOT』featuring SPAM®」(2012年)でガラハッド卿を演じ、松尾スズキ舞台「悪霊—下女の恋」(2013年)では関西弁でしゃべり倒す漫才師を好演している。
賀来はこうして喜劇役者としてのキャリアを重ね、福田雄一率いる福田組の常連になっていった。映画「俺はまだ本気出してないだけ」(2013年)に端役として登場した後は、ドラマ「宇宙の仕事」(Amazonプライム・2016年)で楽器の弾けないバンドマンを、ドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」(日本テレビ系・2017年)ではキザでチャラくて臆病者の池杉をコミカルに熱演。舞台「ヤングフランケンシュタイン」(2017年)と映画「斉木楠雄のΨ難」(2017年)では主演を“喰う”強烈な顔芸を披露している。