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本戦のルールが決まったのは開始4週間前だった

 トーナメント戦の本戦のルールは予選収録時点では決まっておらず、佐藤プロデューサーと、3年前のABEMA将棋チャンネル発足時からアドバイザー的に関わり続けている野月浩貴八段、日本将棋連盟の理事でもある西尾明七段との間で話し合いを重ね、最初に全局のオーダーを一度に提出する案も上がった。

 1局ごとの作戦会議の盛り上がりや、多様なオーダーの組み合わせも期待できる「5勝先取。最大9局」「オーダーは1局ごとに決める」「1人3局まで」「決着までに全員が指す」という今回のルールが決まったのは、本戦トーナメントが開始される4週間前のことだった。

 

 対戦する2チームの作戦会議室は少し離れていて、その中間にオーダー部屋がある。チーム渡辺VSチーム三浦の準決勝では、チーム渡辺からオーダー会議。終わって司会にカメラが切り替わっている間に、チーム渡辺がオーダー部屋から出て、続いてチーム三浦のオーダー会議が行われた。入れ替えはスタッフの誘導で、両チームが顔を合わせることはない。

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 再び司会にカメラが切り替わっている間にチームは作戦会議室へ移動。スタッフが、作戦会議室入口に、相手チームの次の対局相手が書かれたカードを掲げ、初めて相手のオーダーを知ったところで1分のタイマーがスタート。すべてが生放送。相手チームの声は聞こえず、作戦会議室にあるモニターのスイッチもその間は切られているので、視聴者が見ているオーダー会議も相手チームは見られない。相手のオーダーを見てから自分のオーダーを決めたり、うっかり相手の作戦会議を見たりできないようにして公平にしている。

「ミレニアム」控室の風景(ABEMAより)

「あれは完全に素です。ノーカットとは思っていなくて」

 早指しで自分で時計を押すため、ジャケットを脱いで対局する棋士も何人かいた。最初から白い半そでシャツ姿だった「バナナ」の藤井聡太棋聖に聞いてみると「普段の対局で途中ジャケットを脱ぐこともあるのですが、今回は早指しなので、その数秒のロスをなくそうと思って」半そでシャツにしたという。ちなみに在学中の高校の制服とは違うそうだ。

やや緊張した面持ちで入場した藤井聡太棋聖

 AbemaTVトーナメントの楽しみは、番組の生放送時だけではない。放送とほぼ同時進行で、対局ごとの切り取りビデオや、プレミアム会員限定の作戦会議室ビデオをスタッフがどんどん作っていき、番組終了後にABEMAビデオの将棋ページから視聴できる。

 1回戦のチーム三浦「ミレニアム」VSチーム広瀬「大三元」戦で最終9回戦までもつれた三浦九段と広瀬章人八段の対局では、作戦会議室の高野五段と本田五段が応援して、三浦九段の勝利に「さすがすぎる!」と盛り上がる映像がプレミアム限定で公開されていた。「あれは完全に素です。ノーカットとは思っていなくて」(高野五段)とのことだった。他にも、作戦会議室内の無人固定カメラの存在を忘れてしまったかのようなリラックスした各チームのビデオが公開されている。

 

 また、AbemaTVトーナメントの放送期間中に中継されたタイトル戦では、解説や聞き手がAbemaTVトーナメントについてトークで触れることも多かった。

「『王位戦が終わればそんなに忙しくない』という藤井棋聖の発言に、またVSを頼めそうだと永瀬拓矢二冠の目が光った」という「バナナ」の控え室でのエピソードを王位戦中継で披露し、話題になった増田康宏六段は「特にチームの話をしてくれと頼まれているわけではありません。でも、そのために自分が呼ばれているのかなと思って話しています」。そして「……迷惑かもしれないのですが」と付け加えると、藤井棋聖は「いえいえ、そんな」とほほ笑んでいた。

増田康宏六段