将棋の格式とエンタメ性のバランスを考えながら
対局席は白い石を敷き詰めた豪華なセットの中にある。石は合計2トンもあり、スタッフは床が抜けないよう少しずつ分けて運び10時間かけて敷き詰めた。壮大な音楽が流れ照明が当たる中、対局する棋士は通路をゆっくりと歩いていく。1回戦の第1試合、チーム康光「レジェンド」とチーム久保「振り飛車」戦のときは、照明や音楽を棋士ごとに変えるなどしていたが、第2試合からは照明を抑えめにし、音楽も統一した。
「将棋の格式とエンタメ性のバランスを考えながらやっています。テロップを立体的なARに変えたり、新しさもみせました。10%だけ今までの番組を超えるようなイメージでしょうか」とABEMA将棋チャンネルプロデューサーで、第3回AbemaTVトーナメントの制作現場を指揮する佐藤光輔さん(32)は話す。
このような豪華なセットや演出については、非公式戦ながら「大きな舞台」「ありがたい」と前向きにとらえる声が多かった。
「将棋を指す前は緊張しますが、指し始めれば普段通りです」(「所司一門」石井六段)
「入場するところが映るのが目新しいなと思いました。入場時に煙が出ると聞いていたのですが、それがなくなって自分としてはちょっと安心しました(笑)」(「バナナ」藤井棋聖)
谷川九段は「大学生と高校生の息子と一緒に見ています」
対局の神聖さは重視し、入場の際はカメラを担いだスタッフが棋士の姿を追うが、対局が始まると退場。盤面を映す天井カメラと、それぞれの対局時計と対局姿を映す無人固定カメラに切り替わる。番組の音声は解説と聞き手に移し、対局場は対局者と記録係だけ、駒音と時計の音だけが響く静かな空間になる。
第3回AbemaTVトーナメントは「棋士の素顔や、対局とは違った一面を見せることで、盤に向かう真剣な姿とのギャップもファンの方にとって面白いのではないか」と「レジェンド」の谷川浩司九段が語ったように、多くの棋士の素顔が伝わるところも評判だ。対局した棋士は人気の上昇や応援を実感したりはしているのだろうか。
「7月23日の所司一門のミニイベントで『所司一門』チームTシャツ(東京将棋会館の売店や楽天ネットショップで販売中)を着た女性ファンが何人もいらして、応援の言葉もあり嬉しかったです」(近藤七段)
「外を歩いていて声をかけられたりはしません(笑)。7月に誕生日だったので、お手紙やプレゼントがいくつか送られてきて『公式戦とAbemaTVトーナメント頑張ってください』と書いてありました」(「ミレニアム」本田五段)
「レジェンド」の3人には、ご家族がAbemaTVトーナメントを見ているかを聞いてみた。
「私が出ないときは、大学生と高校生の息子と一緒に見ています。息子たちはあまり将棋は指さないのですが、盛り上がる番組を見て観る将的になってきました」(谷川九段)
「11歳と5歳の娘と一緒に夕食をとりながら見ています。たくさんの棋士が出演していて、渡辺さん(明二冠)とか(佐藤)天彦さん(九段)とかリーダーを覚えたり、今まであまり知らなかった将棋界に興味が出てきたようです」(佐藤九段)
「将棋が多少指せる中学生の息子も一緒に見ていて盛り上がっています。(谷川九段の弟子で『フォーカス+1』の)都成竜馬六段が好きです」(森内九段)