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妻の慰めの言葉
電鉄グループで出世する社員たちは、人事や総務といった管理部門へ進む。本社採用者で、進んでタイガースの役員になろうという者はまず現れない。電鉄本社では、「何もしないのが会社の政策」と皮肉られた時期があり、野崎の記憶では、ライバル他社が積極投資しているのを横目に、外から持ち込まれたプロジェクトも、そのリスクを挙げて時期尚早という結論を導きだすことが多かった。
そんな企業風土の下で、本社の背広組が球団経営に加わるということは、結局、貧乏くじなのである。ここらあたりのサラリーマン感覚は、「あないな、だらしないフロントの代わりに、わいが役員になったるがな」という熱狂的なトラキチの雄叫びとは、大いに異なっている。
唯一の慰めは艶子が、
「会社が決めたことだから仕方ないよ」
とあっさり割り切っていることである。野崎はなんだか救われる気がしていた。
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この記事の全文は『サラリーマン球団社長』に収録されています。