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 この時点で佐賀県には反対する理由はない。なぜなら、自治体負担も並行在来線問題もなかったからだ。当時の建設主体は日本国有鉄道だ。建設費は国の負担だし、並行在来線も国鉄だ。ただし、1986年に環境影響評価報告書案が公表されると、沿線市町議会が反対を決議する事態となる。佐賀県の反対理由は「環境問題」が始まりだ。

赤字、民営化で建設は遅々として進まず……国が行った2つの施策

 しかし、国鉄の赤字問題が大きくなると風向きが変わってくる。1987年に国鉄そのものが分割民営化され、九州地域にはJR九州が誕生した。赤字国鉄によって新幹線建設は進んでいなかった。民営化後は、巨額投資には慎重になって、ますます建設が進まない。そこで国は2つの施策を行った。

 1つは1988年に運輸省(当時)が発表した「ミニ新幹線」「スーパー特急」だ。ミニ新幹線は、在来線の線路を改良してフル規格新幹線と直通運転を実施する方式だ。山形新幹線や秋田新幹線で実用化された。

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秋田新幹線は一部在来線区間も走行する ©iStock.com

 スーパー特急は、将来のフル規格新幹線化を見越して新規路線の高架区間やトンネルを建設するけれども、線路そのものは在来線規格とする。この方式で建設された新幹線はないけれども、高速な在来線建設の例としては北越急行ほくほく線がある。

 もう1つは1990年に合意された「並行在来線の分離」という考え方だ。JRの負担を軽減するため、並行在来線をJRから分離することになった。分離された路線をどうするか。不要なら廃止。沿線自治体が必要だと考えれば第三セクターなどを設立して運行する。また、JRが採算が取れると判断した区間は分離されない。JR側に都合がいい条件だけど、地方自治体側に拒否権はある。もっとも、各地ですべて丸く収まったわけではない。経営赤字ながら、JR貨物の列車を通過させるために維持されている並行在来線もあり、地方自治体のためか国のためかわからない路線もある。

©文藝春秋

「スーパー特急方式」のルートが確定

 長崎新幹線に話を戻すと、1987年にJR九州が早岐ルートについて、全額公費負担で建設しても収支改善できないと意見表明した。そして代案として1992年に「スーパー特急方式」で嬉野温泉経由の短絡ルートとし、肥前山口~諌早間を経営分離する試算を発表した。並行在来線の分離については沿線自治体が反対し、自治体が線路施設を保有し、JR九州が引き続き運行する「上下分離」で決着した。

 こうして「長崎新幹線は福岡~武雄温泉までは在来線、武雄温泉~長崎間はスーパー特急」というルートが確定する。つまり、現在、問題となっている福岡~武雄温泉にフル規格新幹線の計画はない。

長崎新幹線のルート(鉄道・運輸機構より)

 このままにしておけば、スーパー特急方式で問題なく開業できた。

 しかし、この後、現在まで続く大波乱が起きる。