期待の星だったフリーゲージトレイン計画は頓挫してしまった。話はスーパー特急方式に仕切り直しだ。しかたない。ところが、もう逆戻りはできない。なぜなら、フリーゲージトレインを見越して武雄温泉~長崎間はフル規格で着工してしまったから。すでに完成に近づいていた。

 その結果、新鳥栖~佐賀~武雄温泉間のフル規格新幹線が開業するまでは、暫定的に武雄温泉の同一プラットホームで在来線特急と新幹線を乗り継ぐという方式となった。

武雄温泉駅。現在は使用を休止している手前の3番ホームから、左の新幹線ホームへ直接乗り換えられるようになる(「鉄道・運輸機構だより2020年春季号」より)

 この方式は九州新幹線鹿児島ルート部分開業時も採用された。新八代~鹿児島中央間が先行開業したため、博多~熊本~新八代までは在来線特急を走らせて、新八代で在来線特急と新幹線を同一プラットホームで乗り継ぐ措置となった。この状態は博多~新八代間が開通するまで7年間続いた。しかし、将来解消されるとわかっていたし、新八代~鹿児島中央間は時間短縮効果もあったため、暫定処置でも受け入れられた。

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終わりの見えない乗り継ぎ

 しかし、九州新幹線西九州ルートの新鳥栖~佐賀~武雄温泉間については、佐賀県が着工を認めない。したがって同一プラットホーム乗り継ぎの終わりが見えない。現在は博多~長崎間で特急「かもめ」が乗り換えなしで運行されている。武雄温泉~長崎間だけフル規格新幹線になっても、在来線特急より時間短縮効果は小さく、乗り換えがあり、おそらく新幹線特急料金は高くなる。利用者側にもメリットがない。

対面乗り換え時代の新八代駅プラットホーム(筆者撮影)

 だったら、全線フル規格で作ればいいじゃないか。

「佐賀県さん、全区間フル規格新幹線にしましょうよ」

「いや、それはおかしいでしょう」

 このような状況である。

 国鉄時代の新幹線計画は、国がすべてのコストを引き受ける前提だった。だから佐賀県の負担はないし、佐賀県に拒否する理由もない。しかし、JRが発足して整備新幹線の枠組みが変わった。新幹線計画には地方自治体の同意が必要だ。

建設が進む長崎新幹線(鉄道・運輸機構より)

新幹線建設の基本ができていない

 整備新幹線の建設着工の条件は次の通り。

・JRが引き受けに合意すること(JRが採算を取れると納得、貸付料の負担は利益の範囲内)
・並行在来線の分離に地方自治体が合意すること
・建設費として、JR、国、地方自治体が負担に合意すること(JRからの貸付金見込みを除き、国が2/3、地方自治体が1/3)

 この要素がそろって初めて新幹線は建設できる。しかし、ここまで読んでいただいてお気づきかと思うけれども、佐賀県はもともと新幹線建設に合意していない。なぜなら、スーパー特急方式で合意して以降、新幹線の計画はなかったからだ。計画もなく、合意もしていないまま、フル規格新幹線建設の話が持ち上がり、佐賀県の合意なしに投資効果が算定されている。佐賀県からしてみれば、いままで検討していなかった区間である。まず「新幹線を作るか否か」から話が始まっていないとおかしい。