佐賀県は「イチから考えるべきだ」と考えている
いままでの整備新幹線建設は、地方自治体に誘致感情が旺盛だった。だから「新幹線を作るか否か」という議論は必要なかった。国が佐賀県も同様だと考えてしまったところに間違いがある。佐賀県は「イチから考えるべきだ」と考えている。しかし国は「フル規格が前提」だ。佐賀県が合意できるわけがない。
ところが、「佐賀県は負担金を問題視している」だけと勘違いし、フル規格新幹線を前提に佐賀県の負担軽減策について検討を始めた。地方交付税交付金の制度で負担金は軽くなると説得するほか、長崎県やJRが肩代わりする仕組みはできないか、などと右往左往している。長崎ルートの通称を「西九州ルート」に変えるなども、佐賀県に配慮した結果だ。残念ながら報道機関には浸透していないけれども。
さらに、フル規格新幹線がどれほど経済効果があるか、佐賀県にもメリットがあるとか、ことさらフル規格新幹線のメリットを説明し、佐賀県を説得しようとしている。佐賀県だってバカじゃない。フル規格新幹線のメリットだって、山陽新幹線直通のメリットもわかっているはずだ。
筆者は今年2月、西日本新聞社が主催したパネルディスカッションに参加したけれども、国土交通省もJR九州OBも、フル規格新幹線のメリットを繰り返すだけで、並行在来線の議論が出てこなかった。佐賀県の気持ちを理解しようとしていない。筆者が「フル規格が良いとはわかるけれども、そこまでのスジが違う」と言っても耳を貸さなかった。
西九州ルートを全線フル規格新幹線にするためには、整備新幹線計画の基本から手続きを始めなくてはいけない。JRの合意はできている。費用対効果の算定もできている。あとは並行在来線問題、建設方式と建設費負担に対する佐賀県の合意が必要だ。
ここまでの道筋がわかれば、西九州ルートに関する報道もわかりやすい。佐賀県知事は国土交通省の官僚や大臣との面談に応じない。佐賀県はフル規格新幹線を前提とした話し合いには一切応じない。スジが通っていないからだ。
佐賀県にとっての懸念は市民の足である並行在来線の処遇
一方で、佐賀県側は並行在来線問題の議論には歓迎の意を示している。佐賀県にとって、フル規格新幹線の成功よりも、市民の足である並行在来線の処遇を懸念している。つまり話は単純で、並行在来線問題で佐賀県が合意するという、整備新幹線のキホンである。
ようやく国もわかってきたようで、環境アセスメントについて、フル規格、ミニ新幹線、フリーゲージトレインなど5方式を提案した。しかし佐賀県は回答を拒否した。この態度は大人げないけれども、アセスメントの前に新幹線の是非という段取りが抜けているからスジが通っている。与党検討委員会の山本幸三委員長は「拒否した佐賀県の考えが理解できない」と述べた。もともとのスジがわかっていないから理解できないのも当然だ。
6月26日、赤羽一嘉国土交通大臣は、九州新幹線関係施設の視察を踏まえて、会見でこのように語った。
「近年、全国各地で災害が起こりましたが、新幹線は災害に強いということが、最近改めて認識されているところで、そうした意味で、コンディションのあまりよくない平地のところで、揺れも激しいので、在来線の特急は、防災・減災の観点からも、改善の余地があるのではないかということも強く感じたところです」
在来線は設備が悪いから新幹線に切り替えたいと言わんばかりだ。その「コンディションの悪い在来線」を佐賀県は引き受けなくてはいけない。佐賀県が在来線の行く末を案じていると解っていないから、こんな無神経な発言になる。「地域交通の担い手として、在来線も改善の余地がある」とでも言えば、佐賀県も「ああ、解ってくれたんだな」と話し合いのテーブルについただろうに。