「JR東海はヤバいんじゃないか」
2020年9月10日、東海道新幹線の新たな割引企画「ぷらっとのぞみ」(東京~新大阪間の片道普通車指定席1万2700円、グリーン車1万4700円)が発表された。2021年3月までの期間限定だ。その発表を受けてネット界隈がざわついた。
旅行好きにとっては低価格商品が出ると嬉しいから歓迎の声が出る。ただし今回は「嬉しいけれど、いいの?」「JR東海もたいへんなのだな」という戸惑いも隠せない。そうした声を拾って「JR東海の危機」を煽るニュースメディアもあった。勘違いも甚だしい。
「ぷらっと」が付けば「投げ売り」を連想するが……
東海道新幹線は、以前から回数券や会員制のネット予約サービス「エクスプレス予約」などがあるし、旅行会社も宿泊と組み合わせたダイナミックパッケージを販売している。冷静に追っていくと「ぷらっとのぞみ」は最安ではない。新たにおトクな商品が登場しただけだ。それがなぜ「経営不安」を煽るような声を生んだか――。
その理由は、先輩商品の「ぷらっとこだま」が「空席埋め合わせの投げ売り企画」として認知されているからだろう。のぞみに「ぷらっと」が付けば「投げ売り」を連想する。昨今の新型コロナによる交通機関の業績報道も背景にある。
「ぷらっとこだま」は1990年に登場し、30年も続く人気商品だ。東海道新幹線の各駅停車タイプ「こだま」の一部の列車に設定され、通常の運賃+特急料金よりも値段が低い。たとえば東京~新大阪間は、きっぷを買うと通常期で1万4400円のところ、「ぷらっとこだま普通車指定席プラン」は1万700円となる。
「のぞみ」指定席よりも「こだま」グリーン車が安くなる
さらに1500円の差額でグリーン席にグレードアップできる。東京~新大阪間のこだまグリーン車は、きっぷを買うと1万9270円。「ぷらっとこだまグリーン車指定席プラン」は1万2200円で、7070円も安い。「ぷらっとこだま」はグリーン車がおトクというわけだ。
多くの人が選ぶ「のぞみ」の普通車指定席は、東京~新大阪間で1万4720円だから、「ぷらっとこだま」はグリーン車でもこれより安い。
所要時間は「のぞみ」の約2時間30分に対して「こだま」は約4時間。それほど急がない旅人にとっては、1時間半も余計に居心地の良いグリーン車に乗れる。私も「ぷらっとこだまグリーン車指定席プラン」が好きだった。徹夜明けで乗ると4時間は居眠りにちょうどいい。「のぞみ」の2時間半は駅弁を食べると2時間程度しか残らず、むしろ時間を持て余す。
ただし「ぷらっとこだま」には安さの代わりに制限がある。JR東海が売る「きっぷ」ではなく、子会社の旅行会社「JR東海ツアーズ」が販売する「旅行商品」だからだ。「ぷらっとこだま」は、片道のみ添乗員なしのツアー商品なので、利用できる列車は限られる。きっぷのように列車の変更はできないし、指定した列車に乗り遅れた場合は無効。「後続の列車の自由席に乗れます」という救済もない。
そのかわり、旅行商品の体裁を整えるため「駅の売店で使える1ドリンク引換券」が付いてくる。これでビールや缶チューハイをもらえば居眠りもはかどる。