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各地で起きた「フル規格化運動」

 長崎新幹線は福岡~武雄温泉間を在来線とし、武雄温泉~長崎間をスーパー特急方式として、列車は在来線特急車両で直通する。いったん決まったこの枠組みを維持していたら問題なく開業できたはずだ。しかし、長崎県を始めとして「全線フル規格化」を望む声が高まり、問題はややこしくなっていく。

長崎駅に停車中の特急「かもめ」(筆者撮影)

 発端は長野オリンピックだ。

 北陸新幹線は1988年に運輸省案で「高崎~軽井沢間はフル規格、軽井沢~長野間はミニ新幹線で直通」というフル規格からの格下げが示された。しかしこの時、長野県は冬季オリンピック招致へ取り組んでおり、日本オリンピック委員会が長野を候補地と決定した。そこで1991年に国際オリンピック委員会が開催され開催地が決定するまで、新幹線の格下げを先送りした。結果として長野開催は決定し、北陸新幹線はフル規格で長野まで開業した。

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 こうなると、他の地方自治体からも「やっぱりフル規格が良い」という声があがった。こうして運輸省案は崩れ「並行在来線」の枠組みが残った。長崎新幹線も例外ではない。全線フル規格化したい。これは長崎県側の強い希望だ。とくに鹿児島ルートのフル規格化決定が影響した。

フル規格は佐賀県にとって恩恵は少なく、負担だけが大きい

 もともと「スーパー特急方式」では現行の在来線特急より15分程度しか所要時間を短縮できない。費用対効果を考えれば無駄だと批判されてきた。しかし、全線フル規格なら30分以上も短縮できる。福岡~長崎間で1時間を切ると時短の印象は強くなる。

 ところが、佐賀県はフル規格案に納得しなかった。佐賀県にとって博多からの所要時間短縮効果は小さい。それにもかかわらず、新幹線整備負担金は建設距離に比例するため、長崎県よりも佐賀県の負担が大きくなる。並行在来線の負担も増える。

長崎駅 ©iStock.com

 整備新幹線建設の条件は「JRが営業を引き受けること」「並行在来線の分離を地方自治体が引き受けること」「建設費を国と地方自治体が分担すること」だから、佐賀県が合意しない限り新幹線は建設できない。新鳥栖~武雄温泉間は、現在も1988年の運輸省案が生きている。

強力な援軍「フリーゲージトレイン」

 このままだと、長崎県は「スーパー特急方式」を受け入れるしかない。しかし、ここで強力な援軍が現れる。フリーゲージトレインだ。いや、その背後の財務省とも言える。フリーゲージトレインとは、軌間可変台車を採用した列車だ。異なる軌間(レールの左右間隔)に対応できるように、左右の車輪間のサイズを変化させる仕組みで、ヨーロッパの国際列車では実用化されている。国ごとに異なる軌間を使っていても直通運転できる。