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iPhoneと8ミリカメラがうつしとった、マヤ伝承と泉の世界

『セノーテ』小田香監督インタビュー

2020/09/18
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――そもそもなぜメキシコのセノーテで撮ろうと思われたのでしょうか。

小田 『鉱 ARAGANE』での体験が大きかったですね。炭鉱という地下の異空間でヘッドライトの光がどう映るのか、重機の光がどのように漏れていくのかを撮りながら、空間が異なれば光のありかたはこんなに違うんだと気づかされました。その体験から、では海や湖の中では光がどう見えるのか考え始めた。地上ではない空間、特に暗闇での光のありかたに興味があったんです。

©Oda kaori

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――セノーテに射し込む光の美しさに驚かされましたが、基本的にあそこに映っている光線は、すべて太陽の光なんですよね。

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小田 そうですね。セノーテの上に少しだけ穴が開いていて、太陽が真上に来ると光が真っ直ぐ降ってくる。それを自分が水に入り体を回しながら撮影すると、光線がゆらゆらと動いているように見える。場所によっては一日に三時間程度しか光が入ってこないので、時間帯を狙って撮影していきました。

――あの光線は本当に自然そのままの状態なんでしょうか。あまりに美しいので、何か加工や着色が行われているのでは、と思ってしまったのですが。

小田 フィルターをかけたり、エフェクトをかけたりということはしていません。カラコレ(カラーコレクション)の方がちょっと鮮明にしたり整えたりという作業はしていますが、色自体はほぼそのままです。

©Oda kaori

――途中、フィルムに傷をつけたような映像も挿入されますよね。

小田 あれはまた別のプロジェクトで使った手法ですね。青写真という、使用済みフィルムを特殊な青い液体に浸け天日干しするという遊びを以前ワークショップか何かでやってみたことがあり、この作品に挿入してもおもしろいかも、と試してみました。

――水中での撮影にiPhoneを選ばれたのはなぜでしょうか。たしか『鉱 ARAGANE』では別のデジタルカメラを使われていましたよね。

小田 Canonの5Dカメラを使いました。今回は、まずiPhoneで水中の撮影をテストしようと思っていたんです。でも実際に撮ってみたらイメージのルックが思った以上に私の好みだった。それと、Canonの5Dを水中で使えるほど私の泳ぎの技術が上達しなかったというのも大きいです。私はもともとカナヅチだったので(笑)。