タル・ベーラ監督に師事し、先日、第1回大島渚賞を受賞した小田香監督の新作『セノーテ』(9月19日公開)は、驚くべき神秘世界へと見る者を誘い、幻惑する。セノーテとは、メキシコのユカタン半島に点在する泉のこと。2015年に発表した長編第1作『鉱 ARAGANE』ではボスニア・ヘルツェゴビナの炭鉱を取材したが、本作では現存するセノーテを訪ね、自らiPhoneや8ミリカメラで撮影。映像と共に、マヤの伝承に基づく物語が朗読によって語られていく。

 かつては貴重な水源であり、雨乞いのため生贄の少女が捧げられる場所でもあったセノーテ。画面に映る光線はまるで生き物のように激しく揺れ動き、いったいどうすればこれほど幻想的な風景が撮れるのかと呆然としてしまう。一方で、水中には死者の気配も漂い、この場所で紡がれてきた長い歴史を感じさせる。小田監督はどのようにセノーテと出会い、映画として完成させたのだろうか。

©Oda kaori

光のありかたに興味があった

――小田監督は前作『鉱 ARAGANE』でボスニアの炭鉱を記録し、その後メキシコに向かい『セノーテ』の撮影に入られたそうですね。映画のクレジットを見るだけでも、かなり多くのセノーテを取材されたのがわかりますが、撮影と編集にはどれくらいの時間がかかったのでしょうか。

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小田 2017年5月に1ヶ月撮影に行ったあと、2018年5月と、10月か11月にまた1ヶ月ずつ、あわせて3ヶ月くらいかけて撮影しました。人に紹介してもらったセノーテや、現地の人々がいる村などをいろいろまわりました。その合間に、1回目のリサーチが終わった時点で一度簡単な作品を作り、2回目が終わったらまた素材を並べ直し、そして3回目の撮影とまとめの作業のあと、すべての素材を編集していった。編集にかけた期間もやはり3ヶ月くらいでしょうか。

――すべて撮り終わってからではなく、撮影をしながらその都度編集をしていったわけですね。

小田 そうしないと次にどういうところに行ったらいいのか、これは何を撮っているんだろうということが自分のなかで整理できなくて、結果的にこういう形になりました。

©Oda kaori

――最初に何かプランがあったというよりも、まずは撮りに行ってみたという感じだったのでしょうか。

小田 1回目の撮影はまさにそういう状態でした。2回目の撮影が終わったあと、ひとつの映画作品として昇華するためにナレーションのようなものをつけようかな、と考えはじめました。それで3回目の撮影に行く前に朗読用の文章を書き、向こうについたらマヤ語を話せる女の子を探して録音をさせてもらいました。いろいろな本に書かれた内容やもともとあるマヤの神話、また行く先々で聞いたお話などを一度自分のなかに取り入れたうえで、生贄の少女という目線で書けないかなと考え、あのお話を書いていきました。