「アメリカのヒーローはたいてい民間人だけど、日本のヒーローはたいてい公務員だ」

 と言われることがある。

 たしかに考えてみれば、ウルトラマンは公務員。本人の所属も国際科学警察機構だし、父は宇宙保安官の公務員一家に生まれたヒーローだ。

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日本では、なぜ公務員がヒーローなのか?

 あるいは、古くは遠山の金さんも町奉行だし、水戸黄門も元藩主。現代ドラマで考えてみれば、『踊る大走査線』も『相棒』も『太陽にほえろ!』もみんな公務員。ちなみに対比されるアメリカのヒーローと言えば、アイアンマン(実業家)にスーパーマン(新聞記者)にスパイダーマン(大学生)、みんなそろいもそろって民間人だ。

 考えてみれば不思議なのだけど、ウルトラマンが公務員であることに、なぜか私たちはとくに違和感を抱かない。「そうか、ウルトラマンは宇宙警察官なのか。だからみんなを助けてくれるんだね!」と納得する。

 警察が、法のもとで悪をはたらいた存在を倒すことも、悪から人をすくおうとすることも、きわめて自然なことだからだ。

 決められた法のもとで、公権力が、悪をさばき、善をたすけてくれる。――これが日本のベーシックなヒーローの物語の典型である。

 しかし、ではすみずみまで世の中を見渡したとき、その善悪を「法のもとで」完璧に裁くことは可能なのだろうか? 

 法律の内側で、するりと姿を消し、見えなくなってしまっている悪は、存在しないのだろうか?

『MIU404』は警察官がヒーローだが……

 2020年に放送されているドラマ『MIU404』は、法律の隙間をするりと抜け、世間からは見えていない社会の悪を描く。そしてその見えない悪に立ち向かおうとする警察官がヒーローの物語である。

公式HPより

 主人公は、警察組織のなかでもっともはやく事件の現場に駆け付ける役目を担う、機動捜査隊に属している。第4機動捜査隊のふたり、星野源演じる志摩と、綾野剛演じる伊吹がバディを組み、さまざまな事件に遭遇する……というのが『MIU404』のおおまかなストーリーだ。

 この『MIU404』、ドラマとしては基本的に一話完結型で、一話につき一事件が提示されている(もちろん最終話付近など例外はあるが)。そのなかで、どの事件にも共通して言えるのが、「法で裁ききれない悪」を描いていること。