たとえば、第1話では、あおり運転の常習者でありながら、ナンバープレートを偽造して使っていたため特定されなかった犯人。
あるいは2話ではパワハラをやめない専務、5話では技能実習生が違法な低賃金で働かされている現場、8話では前科二犯ながら更生していないひき逃げの犯人。あるいは、4話以降大きなキーとなる、裏社会。
現状の法律ではなかなか手の届かない、悪だけど、表の世界では見えていない悪。『MIU404』は、そんな「見えていない悪」と、それによって人生を狂わされてしまった人々を丁寧に描く。
「見えていない悪」を発見し、人々を救済しようとする主人公たち
そしてドラマを通して、視聴者もまた社会に存在する「見えていない悪」に気づく。たとえば外国人労働者の問題、あるいは裏社会に突然巻き込まれてしまう人々、あるいはドラッグに簡単に依存させられる学生たち。
機動捜査隊に属する『MIU404』の主人公たちは、視聴者と同じように、事件を捜査するなかで「見えていない悪」を発見する。そしてその悪から、人々をすくおうとする。
しかし彼らの役割は機動捜査隊。本来の仕事――24時間以内に事件解決を目指す初動捜査の範囲だと、事件に巻き込まれた人々と関わるのは「犯人逮捕」までの時間だ。
彼らが逮捕できるのは、その事件の犯人が、法のもとで明るみに出たときだけ。伊吹と志摩の遭遇する「見えていない悪」――法律をすり抜けて存在する悪は、なかなか逮捕まで至らなかったり、逮捕できたとしても本来の悪の所在は逮捕した人間ではなかったりする。
つまり彼らは、物語のなかで、なかなか最後まで悪を倒すことができないのだ。
『MIU404』の主人公たちは、ウルトラマンではない。まず倒すべき悪がどこにあるのかすら見えていなかったり、倒そうとしても倒す権利がなかったり、「法律」という公権力の責任の規則をすり抜けている敵ばかりだから。
たとえば第8話では、主人公の伊吹が、蒲郡から「お前にできることは何もなかった」と言われるシーンがある。彼らは警察官ではあるが、(従来の公務員ヒーローとは違って)法律のもとで悪から人をすくいきれないヒーローとして描かれる。