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最終回の星野源・綾野剛主演『MIU404』「公務員がヒーロー」でも“強烈に新しい”理由

2020/09/04
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弱者の奮闘に寄り添う、ドラマ『MIU404』の秀逸さ

 ただ、『MIU404』というドラマの秀逸なところは、なかなか悪を倒すことができない主人公たちが「悪から人をすくいきれない」ことに絶望する場面を描きつつ、同時に、悪から被害をこうむった被害者が、「主体的に悪から抜け出そうとする」場面を描くことだ。

伊吹を演じる綾野剛 ©️getty

 たとえば暴力団の権力者に気に入られ、そのすえに彼らから逃げ回る生活を余儀なくされた女性・麦は、伊吹や志摩の上司である桔梗にかくまってもらっている。

 麦は、権力者に対して何もできない自分を、「弱い存在」だと言う。私は力の弱い女性で、低賃金で働いていて、なんの権力もない、と。だけどこうも述べるのだ。

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「怖い人がいてね。我慢してその人の言いなりになるか、遠くに逃げるしかないって言われたの。でもどうして? どうして私が逃げなきゃならないの? 女だから? 力が弱いから?」

「桔梗さんだけが“そんなのおかしい、一緒に戦おう”って言ってくれた」

 自分が弱い存在だったとしても、それでもなお、戦うことはできる。麦はそう述べる。

 そしてそんな麦に対して、自分が敵をすぐに倒すことはできなくても、一緒に戦うことはできると、機動捜査隊の隊長である桔梗は言う。

 世間から見えていない悪がそこにある。そしてその悪の被害をこうむるのは、きまって、弱い存在だ。弱いほうへ、弱いほうへと、被害は流れていく。老人、子ども、女性、労働者、外国人、学生……。『MIU404』で描かれる、見えていない悪によって人生を振り回されてしまう存在は、権力を持っていない側の人々だ。逃げられない、何もできない、と彼女たちは言う。

 しかし彼女たちは、逃げられないと言いつつも、それでもどうにか悪から抜け出そうとする。そして悪と戦おうとする。

 そんな彼女たちを見つけたとき、機動捜査隊の主人公たちは、一緒に戦おうとする。