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【のだめカンタービレ再放送】「ぎゃぼー!」珍演を名演にしてみせた上野樹里の“解釈力”

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2020/09/09

2014年には韓国でリメイク

 今回の再放送で、この作品はまた多くの新しい世代の観客を獲得するだろう。逸脱と才能をテーマにしたこの物語は、時を超えても古びない、日本漫画が生んだ古典、クラシックの一つである。上野樹里が初演であまりに完璧に演じてしまったためにその後誰も手をつけられなくなってしまった感はあるが、本来は何度も繰り返しリメイクされたり舞台でミュージカルになったりする価値のある名作だと思う。

 上野樹里以外ではただ1人、2014年にリメイクされた韓国版で、主人公を『新聞記者』で日本アカデミー賞を受けたあのシム・ウンギョンがソル・ネイルの役名で「韓国ののだめ」を演じている。海の向こうにも「のだめ」を演じられる女優がいるなら、時の流れの向こうに新しいのだめを演じる新しい女優が生まれてきても不思議はないのだ。

日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョン ©AFLO

自由と希望のおとぎ話『のだめカンタービレ』原作

 そしてドラマでは描ききれなかった部分やオペラ編を含め全25巻の原作にぜひ触れてほしいと思う。読譜を苦手とし直感を重んじ、正当な教育から逸脱したのだめは、海外で多くの天才たちと触れ合う中で、再びクラシックがもつ論理、秩序の世界に触れていく。それはまるで学校からこぼれ落ちた子供が学問に再び出会いなおすような、世界と知性、理性と感性のバランスについての寓話なのだ。

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 第1巻の第1話、酔い潰れて目を覚ました部屋で、ゴミに埋れたグランドピアノを弾くのだめを見た千秋はモノローグで呟く。「ゴミの中で美しく響くピアノソナタ 気ままに気まぐれに歌うように(カプリチオーソ カンタービレ)」。

 部屋いっぱいの逸脱に埋もれたグランドピアノから、音楽の精緻な普遍性に手を伸ばす女の子の物語。連載本編の最終回が収録された23巻、スタッフと協力者に感謝を述べる後書きのページで、作者二ノ宮知子はモデルとなった女性への感謝を書き記している。

「リアルのだめ のだめの生みの親。生まれてきてくれてありがとう!」

 それは実在の女性の1枚の写真から始まり、全世界の女の子たちの逸脱に今も祝福を届ける、自由と希望のおとぎ話である。

©文藝春秋

INFORMATION

ドラマ『のだめカンタービレ』
<放送日時>
9月9日(水)スタート 毎週月~金 15時50分~16時50分
フジテレビ系

【のだめカンタービレ再放送】「ぎゃぼー!」珍演を名演にしてみせた上野樹里の“解釈力”

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