うま味の固まり、オクラ納豆玉
まず、スープ・カンジャ。トマト味のカレーライスのような料理なのだが、入れるダシと調味料の種類の多さに圧倒される。
肉は使わず、「生の魚」「干し魚」「燻製の魚」と三種類の魚を入れるのだ。しかもそれらはすべて形がなくなるまで煮込む。つまりダシにしてしまう。こんな贅沢な魚ダシの料理は世界にも例がないだろう。
仕事も実に丁寧だ。生の魚はまず煮て十分火を通したあと鍋から出し、手で小骨まで全部とる。野菜もきちんと洗う。マンボイさんは市場のカット野菜は「洗ってないからよくない」と言う。ニンニクは一かけを半分に切り、芽の部分を取り除くといった具合。
グルメ国民ならではのこだわりはネテトウにも発揮された。半生の豆状のものも、潰してオクラ形に固めたものも、繰り返し丁寧に水で洗う。豆状のものなどは粘り気がすっかり洗い流され、ただの煮豆のようだ。でも味見すると納豆の風味は残っているのが不思議だ。
二種のネテトウは、大量のオクラ(これが主役である)、風味調味料であるマギー、タマネギ、唐辛子、ニンニクと一緒に、日本の銭湯や温泉にある手桶を一回り大きくしたような木の臼に入れ、杵で丹念に搗(つ)く。最終形態は味噌玉のよう。
この料理をレシピ的に説明するのは困難だ。見ていても目が回ってくる。
わかりやすく整理すると、「鍋」と「オクラ納豆玉」からなる。
鍋では三種の魚を煮崩れるまで煮込み、トマト・ピューレと「アジャ」というトマト風味の調味料(以上はすべてうま味)、さらにジャカスという白くて丸いナスに似た野菜と赤、緑、黄色の小さいパプリカを加える。野菜は彩り用らしく、切らずに丸ごと入れて形を残す。魚はうま味に消え、野菜は切らないで残すという発想が面白い。
それに臼で徹底的に搗いたオクラ納豆玉(これもうま味の固まり)を投入して合計一時間以上ぐつぐつ煮込む。
最後に――これは正直私たちには解せないのだが――赤いヤシ油を二リットルのペットボトル一本分、全部流し込んでしまう。これもコクを出すためなので、一種のダシあるいはうま味になるわけだが、「うわっ、全部入れるの?」と口をぽかんと開けてしまった。
日本の濃厚豚骨ラーメンもびっくりで、「うま味狂」がいるとすれば、それは日本人でなくセネガル人だろう。