すごく凝った手作りカレーライスのトマトシチューバージョン
途中、子供たちの面倒を見ながら、長丁場の料理でもマンボイさんたちは疲れる様子を見せない。ウォロフ語で誰かの噂話なのか何か話すと、シャイで無口なカディちゃんがクスッと白い歯を見せて笑う。マンボイさんはマナさんから習ったらしく、「シオ、チョット」とか「イタダキマス」などと日本語をしゃべって、茶目っ気たっぷりの流し目をくれる。
できあがった『美味しい』はパッと見は少しスペインのパエーリャにも似ていた。パエーリャではサフランライスを入れるところをこちらは納豆の風味付けをしたライス、魚介の代わりにネテトウ玉と鰺と三種の「たれ」である。最後にヤシ油を一回し。ごま油をかけるような具合だ。
「これで出来上がり~」陽気なマンボイさんがお皿を両手でもち、頭を揺らしながら歌うように言う。
「『美味しい』は早く作れていいわ~」とも。この凝った料理もセネガルでは「手早い」うちに入るらしい。
作り始めてからざっと二時間半。私と先輩は暑さと情報の洪水と驚きで半ば朦朧としていた。でもとにかく食べてみたい。
クレイジーうま味料理「スープ・カンジャ」はあえて言語化すれば、「すごく凝った手作りカレーライスのトマトシチューバージョン」。
「生魚」「干し魚」「燻製魚」の三種類の魚、マギーとアジャという二つの人工調味料、そしてネテトウ、二リットルのヤシ油。過剰なうま味が渾然一体となって疲労困憊した脳と体を直撃する。ほとんど無意識的に「むちゃくちゃうまい」と呟いていた。
ネテトウの味はわかるような、わからないような。でも、ネテトウがなかったら、おそらくこの味の厚みは出ないんだろうなと思う。
それに比べると、『美味しい』はもっと素朴。なんといってもご飯はうっすらと納豆の風味がする。ネテトウ玉は一口目こそアジアの味噌納豆を彷彿させる。でもアジア諸国では納豆をご飯に直接かけることはあまりないから、ご飯と一緒にかきこむとその味はミャンマーやタイを離れ、故郷の島国のそれに近づいてきて、「そうそう、こんな感じ!」と言いたくなる。しかも口の中で噛んでいると、どんどん日本の納豆の味へ進化していく。飲み込むとほわ~んとした、あの間が抜けたような、ホッとさせるような、裏も表も知り尽くした家族のような香りがこみあげてくる。まさに納豆。そうとしか言いようがない。
ネテトウ玉をオクラソースに合わせれば私の大好物であるオクラ納豆だし、緑の野菜はそうでなくても日本人をホッとさせる。揚げた鰺とご飯も日本人の琴線に触れる。
納豆、鰺、ご飯なのだから、朝の和定食を食べているようなものだ。「ふるさとの味だ、懐かしい」と思うのだけど、ここはふるさとでもなんでもなく、アフリカの端っこにある国なのだった。それに故郷では納豆の炊き込みご飯など、残念ながら全く一般的でない。