「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」。そのモットーを読者にこれでもかと突き付ける新刊を、ノンフィクション作家・高野秀行さんが刊行した。タイトルは『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』、4年ぶりの本格ノンフィクションだ。

『幻のアフリカ納豆を追え!』

 過去の冒険において辺境で納豆を見てきた高野さんは、日本における「納豆をたべられるか否か」で外国人の<日本人度>を計るような風潮に疑問を抱いてきたという。納豆は本当に日本だけの伝統食なのか、今回、「納豆らしき発酵食品」があるという話を聞きつけ、旅立ったのが西アフリカだ。

 納豆探検隊による数か国にわたる探索の中でも際立つのが、アフリカNo.1の美食大国セネガル。「納豆みたいなものがあるらしい。しかも名前は現地語で”ネテトウ”」…にわかには信じがたい噂を元に調査を開始すると、市場で当たり前のように売られる納豆から、想像を越えた調理法、数々の驚くべき光景を目の当たりにすることになる。日本から13,000km離れた西アフリカの端の端、その冒険の一部を『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』から紹介する。(全2回の1回目/#2に続く)

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「納豆」の語源はセネガルのウォロフ語だった!?

 納豆は謎に包まれた食品である。なにしろ、「納豆」という日本語がどこから来たものなのか皆目見当がつかないのだ。中国語由来と思っている人が多いようだが、中国語には納豆という言葉は存在しない。今中国で「納豆」といえば、日本から輸入された納豆を指す。

 では大和言葉なのかというと、それもありえない。「アイヌ語に漢字をあてた可能性は?」と思い、アイヌ研究者に問い合わせたら、「アイヌには納豆を食べる習慣はありません」というシンプルな回答だった。

 日本で作られた漢語風の造語なのだろうか。「豆(とう)」がマメなのはわかるとして、「納(なっ)」がわからない。

 寺の納所(なっしょ)で保存していたから納豆と呼び名がついたという説もあるようだが、納所とは会計事務所のことであり、そんな場所にあの臭い食品を貯め込むはずがない……。

 実は語学オタクである私もうんうん言いながら考えたが、いくら考えてもわからない。さすがは謎の食品。内容以前に名称の由来すら誰も知らないのだ。

セネガル南部で見つけた納豆村。ネテトウ用の豆を大量に煮ている。 撮影:高野秀行

 その謎を解く重要な鍵(?)を与えてくれたのは友人の健ちゃんだった。

 彼は私の幼なじみである。父親同士が勤め先の同僚で、私たちは小学生のとき、一緒にスキーに行ったりして遊んだ。この健ちゃん、その後、東北大学で食品化学を専攻し(卒論のテーマは豆腐)、たまたま味の素株式会社に研究員として就職。ペルーやブラジルなどの勤務を経て、たまたま今ナイジェリアに駐在中であった。健ちゃんはアフリカで納豆が調味料のひとつとして使われていることに関心を持ち、同じく納豆を調査している私に現地で聞きつけた噂を教えてくれるのだ。
そんな健ちゃんから仰天ニュースが届いた。

「セネガル行かない? 納豆みたいなもの、あるらしいよ。名前は現地のウォロフ語で『ネテトウ』(笑)」