「日本にもネテトウがあるんです」
セネガルでは初っ端から意外な展開が待ち受けていた。
まず、健ちゃんからは「サタデーさんというカトリックの人が待っている」と聞いていたのだが、実際に出迎えてくれたのはマンボイさんという陽気なムスリムの女性と、アブ・ジョップという、ボブ・マーリーみたいな髪型の、どう見てもラスタマンとしか思えない男性だった。まるで話がちがう。
マンボイさんは私たちが泊まる家の女主人で、フランス語を話す。私ともフランス語でやりとりした。一方ラスタマンは簡単な英語を話す。私たちがフランス語を解さないと思ってマンボイさんが通訳を用意してくれたのだろうが、一体何者なんだろうか。
彼らは「あなたたちはマナの友だちだから大事にする」とか「マナは××(料理の名前らしい)が大好きなのよ」などとまくし立てるのだが、マナというのが日本人の名前だと気づくのにも数分かかった。どうやら、この民泊を健ちゃんに紹介した人らしい。彼女はセネガルダンスの踊り手としてダカールでも有名だという。しかし、私たちはマナさんのことは何一つ知らない。竹村先輩にいたってはなぜかマナさんがよさこいダンサーで、セネガルへよさこいを教えに来ていると思い込み、「よさこいダンス!」と連呼。セネガル人の二人は「は? ヨサコイって何?」と眉をひそめていた。
結局、互いに相手のことを何も知らない私たちにとって唯一共通の話題は〝納豆〟だった。
「ネテトウを知ってる?」とやや慎重に訊いてみた。〝やや慎重に〟というのは、日本を出る直前に、セネガルに住んだことがあるという日本人から、「ネテトウはセネガルではあまり食べられていない。貧しい人の食べるものだと思われている」と聞いたからだ。
「ネテトウ? あんなもの、食わないよ」という答えも予期していたのだが、二人の反応は全くちがった。ラスタマンは「もちろん。あれは薬だ」と厳かに告げた。マンボイさんにいたっては「ネテトウはセネガルの代表的な料理のほとんどに使われているのよ」と、得意げな表情。
なんと。ネテトウはアフリカで最も美食と言われるセネガル料理で不可欠な調味料らしい。俄然おもしろくなってきた。
今度はこっちが彼らを驚かせる番だ。
「日本にもネテトウがあるんです」と私が言うと、マンボイさんたちは驚いた顔をした。
「え! セネガルから輸入してるの?」
「いえ、日本で昔から作って食べているんですよ。臭くてネバネバする」
「本当? 信じられない!」
「名前はナットウって言います」
「ナットウ? ネテトウそっくりじゃない!!」
そう言って二人は笑った。日本人そっくりの反応だ。