ノンフィクション作家・高野秀行さんが刊行した、4年ぶりの本格ノンフィクション『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』が「突き詰めすぎて、もはやクレイジー」と大きな話題になっている。

『幻のアフリカ納豆を追え!』

 高野さんは日本で外国人に「納豆をたべられるか否か」を迫り、その答えで<日本人度>を計るような優越感を漂わせる風潮に疑問を抱いてきた。なぜなら、過去にアジア諸国の辺境で数々の納豆を見てきたからだ。納豆は本当に日本だけの伝統食なのか。未確認納豆と真実の姿を追い求める高野さんは、今回「納豆らしき発酵食品」があるという話を聞きつけ、アフリカNo.1の美食大国セネガルへ旅立った。

 日本から13,000km離れた西アフリカの端の端。そこで、納豆探検隊が目にしたのは、想像を越えた納豆調理法、そしてどこまでもうま味を追い求めるセネガル料理の数々だった。その冒険の一部を『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』から紹介する。(全2回の2回目/前編から続く)

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前回のあらすじ:「納豆みたいなものがあるらしい。しかも名前は現地語で”ネテトウ”」…高野率いる納豆探検隊は、にわかには信じがたい噂を元に、アフリカNo.1の美食大国セネガルで調査を開始した。南国らしい開放感にあふれた首都ダカール、その市場では多種多様な「納豆」が至る所で売られていた。市場から戻った探検隊はセネガル人のマンボイさん(陽気なムスリムの女性)のお宅にお邪魔し、納豆料理ならぬネテトウ料理を見せてもらうことになった――

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 マンボイさんとカディちゃんというお手伝いの女の子が二人がかりで作ってくれたのは二品。いずれもセネガルで代表的な家庭料理だという。一つは「スープ・カンジャ(オクラのスープ)」、もう一つは「チェッブ・ジョーラ(ジョーラ族の米料理)」。セネガル料理は基本的にワンプレートなので、一回に一つの料理しか作らないが、私たちに時間がないため一度に二種類作って見せてくれたのだ。

 折しも時は十月、「今年は雨が降らないから一年でいちばん暑い時期かもしれない」とマンボイさんは苦笑する。狭い西洋式のシステムキッチンにプロパンガスのコンロを置いているため、厨房全体が竈(かまど)のような熱気に包まれた。

 マンボイさんとカディちゃんは阿吽(あうん)の呼吸でくるくると動き回る。二人ともムスリムだが、とてもお洒落。別に私たちを意識しているわけでなく、日常的にお洒落なのだ。マンボイさんはパープルの布を頭に巻き、ベージュに赤のゆったりしたワンピース。まだ生まれて半年の赤ちゃんがいて、ときどきはその子を背中に布でおぶったままで作業を行う。赤ちゃんはお母さんの動きに従い、メリーゴーラウンドにのっているかのようにくるくる振り回されるが、意に介す風もなく熟睡、ちっちゃいピンク色の足裏が台所のあちこちで閃(ひらめ)く。

ガイド役のアブさんと田んぼ。セネガルでは昔から米と納豆を食べている地域がある 撮影:高野秀行

 いっぽう、カディちゃんは白いTシャツにぴったりしたジーンズを穿いて、頭には白いターバンのような布、そして耳には銀色のかわいいピアスを付けていた。

 この人たちが作るネテトウ料理は「凄い」の一言に尽きた。