納豆の炊き込みご飯
このクレイジーうま味シチューのスープ・カンジャがあとは煮込むだけになると、もう一品の「チェッブ・ジョーラ」にとりかかった。こちらは日本人にとってはスープ・カンジャよりさらに驚く料理だ。
チェッブ・ジョーラは別名「セ・ボン」と言われる。セ・ボン(C’est bon)はフランス語で「美味しい」の意味。「あまりに美味しいから『美味しい』と呼ばれるようになったの」とマンボイさんは屈託なく語る。
料理名が『美味しい』なんて世界でも他にないのではないか。しかもこの『美味しい』の主役は……なんと納豆だった。
まず、ネテトウにマギー、タマネギ、塩を加え、木臼でよく搗き、ネテトウ玉を作る。
次に米を炊く。このとき、米にネテトウ玉(と干し魚少々)を一緒に入れるのだ。
最初は意味がよくわからなかった。だが、ご飯が炊きあがり鍋の蓋を開けたとき、意味は一目瞭然、いや一「嗅」、瞭然だった。
「納豆の炊き込みご飯!」
「そうくるか!」
私と先輩は興奮して口々に叫んだ。ご飯にはうっすらと納豆の風味がついていた。このご飯を大きな平皿に盛り、ご飯からとりだしたネテトウ玉、鰺のフライ、そして別に作った三種のソース(たれ)をのせる。
ソースAはタマネギ、マスタード、酢、ニンニク粉、コショウ、唐辛子粉からなる「酸っぱいオニオンソース」。ソースBはネテトウ、マギー、タマネギ、塩を混ぜて、臼でたんねんに搗いた「ネテトウ・ソース」。そしてソースCは最も凝っていて、タマネギ、マスタード、酢、ニンニク粉、コショウ、唐辛子粉(ここまではソースAと同じ)に塩を加え、それに蒸したビサップという野菜を混ぜた「ビサップ・ソース」。
ビサップはアオイ科ハイビスカス属の一年生植物で、学名はHibiscus sabdariffa、フランス語ではオゼイ、英語名はローゼル、和名もローゼルという。ナイジェリアのダンクワリ村でも料理に使っていた。西アフリカ全体で、ひじょうにポピュラーな栽培植物であった。
実はこの植物の花を煮出したのが日本でも人気のある「ハイビスカス・ティー」である。西アフリカでは冷やして砂糖を入れ、ジュースにして飲む。「ハイビスカス・ジュース」と呼ばれる。だから本書ではこの植物を「ハイビスカス」と呼ぶことにしたい。その方が覚えやすいし、間違いではない。
このハイビスカスの葉はオクラやモロヘイヤと同様、とても粘り気がある。ネバネバは西アフリカの人にとって重要なポイントなのだ。当然納豆とも相性がよい。
最後のソースはカディちゃんが念入りに器の中でかき混ぜていたが、粘り気がすごく、まるで日本人が納豆をかき回している光景にそっくりだった。セネガル人は納豆に粘り気を求めない。セネガル納豆はうま味専門。代わりにオクラとハイビスカスの葉が十分な粘り気を生みだしている。食事にうま味と粘り気を求めている点では日本人と同じ。ただ、こちらでは「分業体制」なのだ。