認めよう。私は少し落胆していた。それから、アーカンソー州での最近の出来事を思い出した。同州に本社があるウォルマートと、州内の拠点で従業員1700人が働いている大手データブローカーのアクシオムが似たような法案を非難したのを受けて、アーカンソー州知事のエイサ・ハッチンソンは州議会に変更を促し、実際に内容が修正されていた。
インディアナ州のマイク・ペンス知事は、セールスフォースに対して事業拡大や投資を盛んに誘致してきたが、州が差別を許す限りそれは無理だと私はメディアに伝えた。私たちは、インディアナポリスで毎年開催されていた顧客向けイベントをニューヨークに移し、そこに1万人の参加者を送り込み、インディアナ州外で800万ドルを支出する計画だと発表した。
経済界は社会問題に声を上げるべきなのか
それから数日というもの、私は一部の政治家から、経済的に脅しをかけて民主的プロセスを邪魔する「実業界のいじめっ子」呼ばわりされた。セールスフォースの株式を売り払い、当社のソフトウエアとは縁を切ると言い出す株主や顧客もいた。
その後、少しずつ他のビジネスリーダーが敷居を越えて参戦し始めた。クチコミ情報サイトを運営するイェルプのジェレミー・ストップルマンは、「あなたが上空援護してくれたおかげで、私たちも声を上げても大丈夫だと思えるようになった」と、私を労ってくれた。
ユーチューブのCEOで、セールスフォースの取締役を兼務するスーザン・ウォシッキーも味方してくれた。アップルのCEOのティム・クックはワシントンポスト紙の論説で、「米国の実業界では長年、どのような形であれ差別はビジネスに有害だと認識してきた」と述べて、他の人々も立ち上がってこうした法律に反対するようにと呼びかけた。
リーバイス、ギャップ、ペイパル、ツイッター、イーライリリーなどの企業がすぐにこうした声に賛同し、州知事に宗教の自由の回復法の廃止を求めた。また一方で、米国全土の市長や州知事がインディアナ州への公用渡航禁止令を出した。さらにインディーズのロックバンドのウィルコは、予定していたインディアナポリス・ツアーのスケジュールを中止したのである。
バリューに反する問題から目を背けてはならない
数日後、スポーツジムにいる私の電話が鳴った。「インディアナ州知事がお話ししたいと申しております」
それから州知事に代わった。「やあ、マーク、どうなっているんだ?」
私は電話をくれた礼を述べた後で、ペンス州知事に切り込んでみることにした。「この法律は変更しなくてはなりません。そうでなければ、私たちはインディアナ州にとって経済的に大打撃となる結果をもたらしますよ」