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「実業界のいじめっ子」呼ばわりも……あるCEOが「差別が許される州」に抗議した結果

『トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考』より #1

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利益や損失よりも大きな問題

 ありがたいことに、そうした風潮は変わり始めている。近年では、利益や損失よりも大きな問題について声を上げ始めるリーダーがますます多くなってきた。アップルのティム・クック、製薬大手のメルクのケネス・フレイザー、メガバンクのバンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンなど、多数のCEOがバリューで人々を束ね、ソーシャルパーパス(社会的意義)は事業の一環だと捉えている。ユニリーバのポール・ポールマンやペプシコのインドラ・ヌーイがCEO在任中にそうだったように。

 世界最大の資産運用会社で6兆円を管理するブラックロックの会長兼CEOのラリー・フィンクはこの新しい考え方を支持し、積極的に発言してきた。2018年には、ブラックロックの投資先である各企業は「財務業績を上げるだけでなく、それがいかに社会に貢献するかを示さなければならない」と、社内に指示を出している。

©iStock.com

 はっきりさせておこう。インディアナ州の一件から最終的に明らかになったのは、誰かが1人でビジネスの倫理基準を担っているのではないことだ。従業員からの電話やメッセージは、経営陣が動かなければ、下から突き上げられる銃剣を直視せざるをえなくなることの証しである。バリューにコミットし続けることなくトップ人材を採用し、つなぎ留めておける時代はとうの昔に過ぎ去ったのだ。

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 これからの時代は、朝起きて、目覚まし時計を止めて、職場に向かうすべての人が一定の役割を果たすことができる。これは地位の高い人に限ったことではない。現場や社内の執務スペースでも同じだ。

本当の意味での「バリュー」に目を向ける

 社会的な問題が企業のコアバリューと衝突するときにCEOが目を背けることができないのと同様に、従業員もまた、経営陣がどんな決断をしようとも、自分たちの権限では何もできないと見て見ぬふりをすることは許されない。経営陣がコアバリューに基づいて行動しないならば、あらゆる階層の従業員が説明責任を負わなければならない。

 過去には、良心を持つことは、おおむね企業のバランスシート上では「その他」に分類される類いのことだった。しかし、現在では違う。バリューが価値を創出するという概念を受け入れない限り、どんな企業であれ今後は成功しないだろう。

(翻訳:渡部典子)

トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考

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東洋経済新報社

2020年7月31日 発売

「実業界のいじめっ子」呼ばわりも……あるCEOが「差別が許される州」に抗議した結果

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