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2020/09/15

2人の言葉にかかっていたプレッシャーの理由

 池松や蒼井がこれほどコメントに苦しみ、言葉を選んだのには理由があった。『宮本から君へ』はピエール瀧の出演シーンをカットしなかったことを理由に、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」の助成金の交付内定を取り消されている。

 制作スタッフは4月の段階で芸文振側から、作品を再編集する意図があるか、また助成金の内定辞退の可能性があるか問われていた。8月の舞台挨拶での池松壮亮や蒼井優の涙、言葉の迷いにはそれだけのプレッシャーがかかっていたのだ(これは後に制作会社が芸文振を提訴する事態にまで発展している)。

蒼井優 ©getty

 2020年、9月11日に『いのちの停車場』の記者会見が行われる前日、10日のTOKYO MX『バラいろダンディ』では、俳優の梅沢富美男が怒りを爆発させていた。

「何回この番組で俺が言ったか。お前ら本当いい加減にしろよ。(略)一般社会で考えてごらん。会社だって薬物やったら戻れないよ。薬物やったら芸能界にはもう戻さないし、使わない」

 その発言は多くの視聴者から賛同を受けた。

 このまま行けば伊勢谷友介の出演作の公開が迫るたびに、『とんかつDJアゲ太郎』では北村匠海が、『十二単衣を着た悪魔』では伊藤健太郎と三吉彩花が、『るろうに剣心』では佐藤健や有村架純たちが、去年の池松壮亮と蒼井優のような板挟みの中で、先輩俳優の逮捕に対して何を言うかの「踏み絵」を迫られる流れにあった。

吉永小百合がメディアに対して倫理の基準線を引き直した

 この流れの中、おそらく東映の社長と吉永小百合には、去年起きた事件による各現場の混乱の記憶、それを避けるためにまず初動で鮮明に立場を示すという決意があったのではないか。

 日本を代表する女優、吉永小百合が先んじて語ったコメントは、メディアに対して倫理の基準線を引き直した。

吉永小百合 ©文藝春秋

 会見の中で吉永小百合は、伊勢谷友介との共演の思い出をまず語り、彼の役柄が脊髄損傷により四肢麻痺を患うIT社長であり、自分の役柄が医師であったことを説明している。その映画の説明の後に置かれた「こういうことを乗り越えて、また撮影の現場に帰ってきて欲しいという風に、今思っています」というコメントは、伊勢谷友介の抱える問題、「乗り越えるべきこと」を依存症や心の問題として捉えていることを観客に印象付けた。

 大麻に対する国内世論は今、複雑に分裂している。大きな健康被害はなく海外では合法化されているのだから、という解禁論があり、それに対する根強い反対論もある。海外がどうあれ、現時点では非合法であり、反社会的勢力の資金源になっているのだから非難は免れないという指摘も否定しがたい。

長年薬物依存に苦しみ、克服したロバートダウニーJr

 昨年、東映の『麻雀放浪記2020』を監督し矢面に立った白石和彌監督は、俳優の犯罪と復帰について『文藝春秋』でロングインタビューに答えている。薬物犯罪は依存症としての面があること、復帰を支える体制が必要であること。ネットを中心に他者を問答無用で断罪する空気が広がっていること。

白石和彌監督 ©2018若松プロダクション

 白石監督も名を挙げる例に、『アイアンマン』『アベンジャーズ』で知られるハリウッド俳優、ロバート・ダウニー・Jrがいる。8歳から映画監督の父親に勧められて大麻を吸引しながら子役として活動するという環境で育った彼は、6回の逮捕、1年間の刑務所服役、リハビリ収容施設への入所を経験した。

 長年薬物依存に苦しんだ末に2003年、「きっぱりと止める時がきた」と所持していた薬物を海に投げ捨て、それ以降治療を通じて依存を克服する。過去の経歴を問題とする制作スタジオの猛反対を受けながら、ジョン・ファヴァロー監督の信頼で『アイアンマン』のトニー・スターク役を勝ち取る。