新首相に選出された菅義偉が唱えたのは「安倍政権の継承」だった。だが、コロナ対応に限ってみると、果たして前政権のそれは受け継ぐような代物だっただろうか。振り返れば、初動から判断の遅れに批判がつきまとった。こうしたイメージを払拭しようと打ち出した布マスクの配布や現金給付では、見切り発車や急ブレーキを繰り返し、その度に振り回されたのは国民と、その国民に近い場所で業務を担う地方自治体の現場である。
現場指揮を担ってきた知事たちの声に改めて耳を傾けてみると、新政権が取り組むべきコロナ対応の課題が浮き彫りになってくる。
「全国の知事たちは納得がいかない」
「東京都と大阪府を除けば、全国の知事たちは納得がいかないと思います」
安倍首相が辞任会見をして一夜明けた翌29日、私の取材にそう答えたのは鳥取県知事の平井伸治氏だ。
懸念は、会見の4時間前、安倍首相が本部長を務める政府対策本部で「今後の取組」として決定したA4判6枚の決定文書の中にあった。
「軽症者や無症状者について宿泊療養での対応を徹底し、医療資源を重症者に重点化していく」と記された方針についてである。
確かに、軽症・無症状なのに陽性の人をどうするかは、新型コロナの大きな課題だ。現状では、感染症法上、「陽性」と判定された人は、無症状であっても入院勧告がなされ、感染が疑われた時点で医師は保健所に届け出るルールになっている。
しかし感染が拡大している地域では医療現場や保健所の負担が増しているのは事実で、分科会に出席する全国保健所長会の関係者などから見直しを求める声が、強まってはいた。
“現場の声”が抜け落ちた安倍政権
だが、その声は、陽性者の数が突出して増えた東京都や大阪府といった大都市部が中心で、感染者が出たとしても1桁から2桁で推移する地方の都市は様相が異なっていたのだ。
危機管理の局面だからこそ耳を傾けるべき“現場の声”、とりわけ声の大きくない者の声がすっぽりと抜け落ちる――それが政府の一連のコロナ対応の特徴と言ってよく、最後の最後までその例に漏れなかった。
政府の決定の直後から、前出の平井知事だけでなく埼玉県の大野元裕知事、和歌山県の仁坂吉伸知事らから、「宿泊療養を徹底、では困る」と違和感を表明する声が次々と上がった。彼らが責任を持つ地域では、大都市部と違い、まだ、ほぼ全ての感染者の感染経路を追うことができている。そんな地元で入院が必須でなくなれば、感染をみすみす広げかねない――そう危惧していたのだ。
どうしてこんな行き違いが起きたか。そう考えて思い当たるのは、決め方の奇妙さだった。