第3局(7月19日、亀岳林 万松寺、持将棋)
叡王戦では、1時間、3時間、5時間の対局が2局ずつ、そして第7局では6時間という変則持ち時間制が採用されている。ところが、叡王戦がタイトル戦に昇格してからは2回ともストレートで決着がついたこともあり、持ち時間1時間の対局はこれまで実施されたことがない。
それが第3局・第4局で初めて実現する。「持ち時間1時間」「1日に2局」は、どちらもタイトル戦史上初の出来事だ。
ところが、持ち時間1時間の「スピード決着」になるだろうという予想は見事に裏切られた。14時から始まった将棋が終了したのは17時49分。207手で持将棋が成立した。持ち時間を使い切って1手60秒以内に指す「1分将棋」が2時間近く続いたことになる。
タイトル戦での「2局連続持将棋」は全体未聞の出来事だった。
note代表が見届けた真剣勝負「もう1局、指すなんて信じられない」(加藤貞顕)
https://bunshun.jp/articles/-/39385
第4局(7月19日、亀岳林 万松寺、永瀬拓矢○ー豊島将之●)
ダブルヘッダーの2戦目も大熱戦となった。
途中までは豊島が優位に進めていたが、おたがいに「絶対に負けたくない」と言わんばかりの手の応酬が続くなかで、いつしか形勢は混沌としてきた。持将棋となった前局の207手を超え、232手まで進んだところで豊島がマスクを付けて投了した。2局合わせて、439手。終局時間は、日付が変わるわずか1分前、23時59分だった。
あまりに壮絶な将棋に控室にいた誰もが言葉を失ったが、極めつけは局後に行われた永瀬のインタビューだった。
「比較的ハイになっているので、疲れはまったく感じていません。(もう1局は)指せるのでしょうが、それは負担がありそうな気がします」
永瀬拓矢叡王VS豊島将之竜王・名人 ロジカルな棋士が、感性と意地をぶつけあった(加藤貞顕)
https://bunshun.jp/articles/-/39386
第5局(7月23日、将棋会館、永瀬拓矢○ー豊島将之●)
序盤早々、豊島は桂馬を損する指し手を選んだ。立会人の塚田泰明九段は「一昔前なら破門と言われる手ですけどねえ」とつぶやいたが、これが妙手だったようだ。豊島ペースで進んでいった。
一方の永瀬は、評価値的に差がついた局面で曲線的な順で粘りに行った。いつしか評価値は互角に戻り、相入玉もあり得るかもしれないという空気が流れたが、一瞬のスキを突いて永瀬が豊島玉に攻めかかった。
豊島らしからぬ逆転負けで、永瀬に一歩リードを許した。
「一昔前なら破門」雨の将棋会館で豊島将之竜王・名人が繰り出した序盤戦術(木原直哉)
https://bunshun.jp/articles/-/39436
第6局(8月1日、関西将棋会館、永瀬拓矢●ー豊島将之○)
関西本部所属の豊島にとって、関西将棋会館は幼いころから慣れ親しんできたホームグラウンド。通常、タイトル戦の対局場になることはあまりないが、コロナ禍という特殊な状況にある今期は5階の「御上段の間」がたびたび使用されている。
豊島は、名実ともにトップ棋士だ。しかし、7月は7局指して勝ちがなかった(5敗2持将棋)。タイトル戦を中心とした過密日程も原因の一つだったのかもしれない。
「関西将棋会館でのタイトル戦は初めてですが、幼いころから将棋を指してきた場所なので、普段通り指せると思います」
こう対局前に語っていた豊島は、ホームで連敗脱出を果たし、シリーズの成績をタイに戻した。
「小さい頃から有名人だった」豊島将之竜王・名人は“ホーム”で連敗脱出なるか(諏訪景子)
https://bunshun.jp/articles/-/39632