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叡王戦ついに決着 シリーズ総手数1418手の激闘を名場面でふりかえる

叡王戦ついに決着 シリーズ総手数1418手の激闘を名場面でふりかえる

豊島将之新叡王誕生 写真で見る「第5期叡王戦七番勝負」

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第7局(8月10日、将棋会館、永瀬拓矢○ー豊島将之●)

 本来ならば、本局が行われる場合には七番勝負の決着局となるはずだった。ところが、この時点で両者の対戦成績は2勝2敗2持将棋。つまり、第8局が行われることが確定していた。そのため、最終局ではないにもかかわらず振り駒で先後が決まるという珍事も発生した。

 90手目、豊島が△5五同歩を着手した段階で、シリーズの総手数は1231手になった。これまでタイトル戦番勝負における合計手数の最長記録は、加藤一二三十段が中原誠名人から名人位を奪取した第40期名人戦(1982年)の1230手だった。約38年ぶりに記録更新された上、少なくともあと1局は勝負が続く。

 勝負は優勢になった永瀬が手堅く押し切り、3勝目を挙げてタイトル防衛にリーチがかかった。

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永瀬叡王の盤側には、いつも通りバナナの房が ©文藝春秋
振り駒の結果、永瀬叡王の先手番となった ©文藝春秋
永瀬叡王は局後のインタビューで「バナナからコーヒーに切り替えたい」と語り、この日はブラックの缶コーヒーを何本も空けていた ©文藝春秋
通常の出前とは違う、夕食の特別メニュー ©文藝春秋
夕食休憩中、特別対局室から夕日を眺める ©文藝春秋

その日、永瀬拓矢叡王は絶対に負けない将棋を指し続けた(さくらはな。)
https://bunshun.jp/articles/-/40110

第8局(9月6日、元湯陣屋、永瀬拓矢●ー豊島将之○)

 この間、豊島には大きな変化があった。並行して戦っていた名人戦七番勝負で挑戦者・渡辺明に敗れ、名人位を失冠してしまったのだ。

「名人を失冠してから少し時間が経って、割とスッキリした気持ちで臨めました。事前に決めていた展開だったので、研究範囲外に入るまでは早く進めるつもりでした」

 カド番で本局を迎えた豊島だが、そんなプレッシャーを感じさせない鋭い踏み込みで午前中から優位に立った。

 対局場は、神奈川県秦野市の老舗旅館「陣屋」。過去にも数々の名ドラマを生んできた舞台だ。豊島は昨年の王位戦七番勝負で木村一基と、永瀬は今期の王座戦五番勝負で久保利明と、それぞれ上座に座ってタイトルホルダーとして対局した経験がある。

 隙がない指し回しで豊島が再び勝負をタイに戻した。

 一方の永瀬は、敗れはしたものの前を向き、決して振り向かずに陣屋をあとにした。その目は、すでに次局を見据えていた。

対局室へ向かう豊島将之竜王 ©野澤亘伸
眉間にしわを寄せて熟考する永瀬叡王 ©野澤亘伸
感想戦は夜の帳につつまれて ©野澤亘伸
敗れた永瀬叡王は、その日のうちに陣屋をあとにした ©野澤亘伸

運命の“第8局” 恐怖心を克服したボクサーのように、豊島将之のストレートが伸びる(野澤亘伸)
https://bunshun.jp/articles/-/40312

第9局(9月21日、将棋会館、永瀬拓矢●ー豊島将之○)

 第8局の終了後、改めて振り駒が行われた。その結果、豊島が第9局で先手番となり、後手番となった永瀬は持ち時間を選択する権利を得た。永瀬が選んだのは、第7局、第8局と同じく最長の6時間だった。

 第1局が行われてからちょうど3カ月後。史上初の「第9局」にまで至った、長い戦いを最後に制したのは豊島だった。序盤のリードを最後まで手放さない快勝譜となった。

 これで本局を含めて先手番の6勝1敗。結果的には、シリーズを通じて先後の差が際立った。

名人失冠から1カ月と経たずに「二冠」に復帰した ©君島俊介
決着局ということもあり、多くの報道陣が集まった ©君島俊介

 

終局後、インタビューに答える豊島新叡王 ©君島俊介

 叡王戦はファンから強く愛されている棋戦だ。クラウドファンディングで運営費を募ると、目標額を大きく上回る1400万円以上が集まった。視聴者のコメントにも熱が入る。

 開幕時ともに「二冠」を保持していたトップ棋士同士による激闘は、そんな観る将ファンを大いに盛り上げた。まもなく対局が行われる王将戦リーグ、そして二人にとっては防衛戦となる永瀬の王座戦、豊島の竜王戦でも、再び戦う姿でファンを魅了してくれるはずだ。

 なお、第9局の観戦レポートは、後日改めて配信する。

INFORMATION

第5期叡王戦 公式サイト

http://www.eiou.jp/

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