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 ヤクザ業界では、仕事(ケンカ)をするための「道具」と呼ばれている拳銃だが、その形式にも気を配っていたと説明する。

「拳銃の弾倉には、『回転式』と『自動装填式』がある。自分は回転式を使うと決めていた。撃鉄を起こすとレンコン型の弾倉が回転して確実に銃弾を送り込んでくれる。間違いがない。自動装填だと銃弾が詰まってしまうことがあると耳にしてから、いざという時に失敗して『弾が詰まってしまいました』では話にならないので避けている」

(写真はイメージ)©️iStock.com

 現場に行く際には「『これから相手を拳銃で撃ち殺すかもしれない』という気持ちと、『もしかしたら自分が殺されるかもしれない』という気持ちがせめぎ合って、異常な興奮状態で神経が高ぶっていた」という。

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「腹のベルトに差し込んだ拳銃が冷たくて重かったことを覚えている。前の晩に妻に話したら、『大丈夫。あなたは必ず生きて帰ってくる』と言われたことは、鮮明に記憶している」

 この幹部は銃撃事件を起こした後、逮捕され長期の服役に赴くことになった。

警察官の多くは「射撃訓練は苦手」

 では、暴力団を捜査する側の警察官は拳銃をどのように扱っているのか。

 もちろん警察官は、拳銃を日常的に携帯している。交番などに勤務する地域警察官が腰のベルトに拳銃を吊り下げてパトロールで巡回している姿は、誰もが街で見かけていることだろう。

(写真はイメージ)©️iStock.com

 だが、当の警察官に話を聞くと、拳銃の取り扱いが得意な者はごく少数だという。実際に使用したことのある警察官はごく稀なうえ、取材した多くの警察官は射撃訓練を「苦手」と感じていた。

 殺人や強盗などの凶悪犯の捜査や、地下鉄サリン事件などを引き起こしたオウム真理教の逃走犯の追跡を担当した警視庁捜査1課の元捜査員は、次のように打ち明ける。

「捜査の現場で拳銃を携帯したことはあるが、実際に使ったことはない。警察では年に1回拳銃の射撃訓練があるだけで、射撃が得意だという警察官はいないのではないか」

 警察の射撃訓練では、腕前の上達よりも事故防止に気を使うことの方が優先されるという。

「事故防止のために、『指を入れるな、人に向けるな』と合言葉を交わしながら準備する。『指を入れるな』は、準備中に引き金に指を入れて何かしらの力が加わり、思わぬ方向に発射して事故が起きてしまうことを事前防止するという意味。『人に向けるな』は文字通り銃口を人に向けるなということ。訓練の前は、2人組で保管庫から取り出すなど、実際の射撃よりも神経を使う」