神奈川県警で長年にわたり暴力団犯罪捜査を担当しているベテラン捜査員も「捜査の現場で拳銃を携帯することは多い。しかし、使用したことは一度もない」とのことだった。さらに、「とにかく拳銃は当たらない」という点も同じだ。
「射撃訓練の的は20メートル前後ぐらいの位置にあるが、自分はほとんど命中しなかった。引き金に指をかけると、どんなに注意しても微妙に力が加わってしまい狙い通りには行かない。2~3メートルの距離なら命中させる自信はあるが……」
日頃から拳銃を携帯している警察官でも、一筋縄ではいかない“道具”なのだ。
抗争で怪我をしたらどこにいく?
ふたたび銃撃事件を起こした暴力団幹部の話に戻ろう。
銃撃事件など“ケンカ”で負傷した場合、暴力団員はどうやって対応するのか。実は、リスクを抱える暴力団員にとって、健康保険の加入は必須なのだという。
冒頭で拳銃を発射した経験を明かした指定暴力団幹部は次のように話す。
「けがをした際などに健康保険は絶対に必要。無保険で治療費10割負担となれば、大変な金額になる。ただ所得がないことになっているから、保険料は最低レベル。ケンカだけでなく、普段から風邪をひいたとか、虫歯の治療だとかと何かと必要」
なぜ健康保険が必要なのか。キャリアが長い別の指定暴力団のベテラン幹部が打ち明ける。
「世間の人は『ヤクザがケガをしたら、専門の闇医者の世話になる』というイメージがあるかもしれないが、自分の場合はそのようなことはない。ケンカはいつ、どこであるか分からない。もし自分が拳銃で撃たれたり、刃物で刺されたりするようなことがあれば、119番通報して最も近くの病院に運んでもらう。それが最善の策だ。知り合いの医者がいる病院に運んでほしいなどと言っていたら、やり取りしている間に手遅れということになりかねない。ヤクザも怪我をしていれば治療してもらえる。だから、健康保険は当然入っている。
表向きは収入がないことになっているから保険料はわずかなものだ。少し前のことだが、生命保険にも入っていた時期もあった。女房も子供もいるし。自分は全く知らなかったが、(ケンカに備え)女房が手続きをしていたようだ」