「痛風でもビールを飲んでもいい?」

 そんな、痛風患者に一筋の光明が差すような話が展開されているのが、「『健康』から生活をまもる 最新医学と12の迷信」(生活の医療社)だ。筆者の大脇幸志郎氏は、東京大学医学部を卒業後に出版社に勤務。その後、最新の医療論文を紹介する「MEDLEYニュース」の編集長を経て、現在は医師として診察を行っている。

 本書にある大脇氏の主張は「ビールにプリン体はほとんど含まれていない」「食事のコレステロールは計算しなくていい」「がん検診は行っても行かなくてもいい」と“うますぎる話”にも思えるが、すべてがエビデンスに基づいている。読み進めていくと、現代人がいかに健康情報に振り回されてしまっているかが見えてくるのだ。

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 情報が溢れるなかで、医学知識を適切に役立てるにはどうすればいいのか——。

 文春オンラインでは第1章「痛風、尿酸、プリン体」を抜粋する。

※本書にある注釈や出典については省略し、一部編集をしています。

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「プリン体は減らそう」本当にそうだろうか

 ビールは好きだろうか。ビールを買うときに、「プリン体」という言葉を見た覚えはあるだろうか。ビールの広告にはよく、プリン体が少ないとかゼロだとか書いてある。プリン体とはなんだろう?

 プリン体の少なさが宣伝になるということは、どうやらプリン体は体に悪いらしい。テレビの健康番組か何かで、プリン体は体内で尿酸というものに変わると聞いたことがあるかもしれない。尿酸とは? 尿とついているがおしっこのことではなく、血液の中を流れているようだ。そして尿酸は痛風の原因になるらしい。

 痛風とは、痛いという字がつくぐらいだから、痛い病気のようだ。

 そういえばどこかの誰かが「足の親指の付け根が腫れて激烈に痛くなる病気」だと言っていた。「風が吹いても痛む」というのが語源だとも。

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 話をつなぎ合わせるとこうだ。ビールを飲むとプリン体が体に入るので、プリン体は尿酸になり、尿酸は痛風を起こし、痛くなる。だからプリン体は減らそう。そういうことらしい。

 しかし、本当にそうだろうか。

 まず、ビールにプリン体はごくわずかしか含まれていない。重量あたりのプリン体の量で言うと、肉や魚のほうが10倍から100倍は多い。しかし、ちりめんじゃこを毎日食べていたら「痛風になるよ」と注意されたなどという話は聞いたことがない。むしろ「魚を毎日食べて健康的ですね」と言われるのが普通かもしれない。たいていの人はビールの何倍ものプリン体を毎日食べているのだが、痛風になる人はそう多くない。

 相当の大酒飲み以外は、ビールから飲んでいるプリン体の量など、食事全体から見れば誤差の範囲内だ。