それでも、数値を下げるために「できることはやっておきましょう」と言われるかもしれない。酒のせいではないかもしれないが、酒のせいかもしれないのだから、禁酒してみる価値はある、そういう理屈だ。
この理屈は一見もっともなようでいて、「雨乞いをすると雨は降らないかもしれないが、降るかもしれないので、雨乞いをする価値はある」と言っているようなものだ。雨乞いをやれと言われても聞く必要はない。その場でだけ「やります」と嘘を言っておいて、帰ってから心おきなく飲んでもいい。
尿酸値を下げる薬で痛風は防げるのか
さて、事実と言葉の力を駆使して、飲む権利を確保し、気分良くビールを飲む生活を続けたとしよう。
あるときまた健康診断に行けと言われる。
会社で義務づけられているから仕方ない。採血されてしまえば尿酸だけは測るなと言うわけにもいかない。前回よりだいぶ高い数字が出る。今度は酒の話はそこそこに、「お薬を始めましょう」と言われるかもしれない。薬を飲めば尿酸値が下がるのだと。
そう言われて黙っていると、ザイロリック(一般名:アロプリノール)とかフェブリク(一般名:フェブキソスタット)とかウリアデック(一般名:トピロキソスタット)といった薬が出てくる。言われるがまま薬を飲み、1か月後の検査に行くと、確かに尿酸値は下がっている。効いたようだ。なら、まあ、いいか。医療費も払えないほどではない。毎日薬を飲むのは面倒だが、ビールを飲むなと言われるよりは楽なものだ。
しかし、そもそも問題は痛風だったはずだ。痛風の話のはずが、いつのまにか尿酸値の話になっている。薬で尿酸値が下がるのはわかった。ではその薬で痛風は防げるのか。
「痛風の予防」とは一言も書いていない
薬の添付文書という説明書を読むと、ザイロリックの効能効果は「下記の場合における高尿酸血症の是正/痛風、高尿酸血症を伴う高血圧症」とある。高尿酸血症というのは尿酸値が高いということで、高い尿酸値を「是正」できると書いてあるが、「痛風の予防」とは一言も書いていない。薬で痛風は防げるのだろうか。
防げない。正確には、尿酸値が高い以外に持病がなく、痛風になったこともない人が、尿酸値を下げる薬を飲んでも、初発の痛風が減る、という証拠はない。
日本の学会が出しているガイドラインには、尿酸値が高いだけなら薬を始めるかどうかは慎重に考えるべきだという意味のことを書いてある。