――こうした家弓さんのオープンな考え方も、「Campy! bar」の雰囲気に反映されていった。
ブルボンヌ そうだと思います。今思えば、上京してから『Badi』編集部時代までのフェーズが、ゲイの世界で、自分に自信を持てるようになるための期間だったとしたら、その後、ゲイの世界で教えてもらったことをストレートの世界に発信するフェーズが始まったのかなって。
彼との出会いや、そのあたりの気持ちの変化が、「Campy! bar」をゲイがゲイだけで集まる過去のゲイバーではないものにしていこう、というところに繋がっていったのかも。
なぜ今「ドラァグクイーン」ブームなのか?
――今のお店のコンセプトを、改めて言葉にすると?
ブルボンヌ「キャンピー」(注2)って名前通り、私たちのオネエカルチャーで作ったお店っていうのが大前提。LGBTQを中心としたチームで運営しているし、かかる音楽や、飛び交うジョークもオネエ的。でも、同時に誰でも前向きな気持ちでいれる場所にしたいね、初めての人も楽しんでね、って感じかな。
注2 キャンプとは……ドラァグクイーンの美意識に代表されるような、芝居がかった言動や、悪趣味や誇張、パロディや皮肉を楽しむ感性のこと。「キャンピー」はその形容詞形。
――今、ドラァグカルチャーが熱視線を浴びていると思うんです。『ル・ポールのドラァグ・レース』が世界中で大ヒットしてますし、昨年のメット・ガラのテーマは「キャンプ」でした。実感はありますか?
ブルボンヌ ありますね。日本でも、女性誌でドラァグクイーンのメイクアップ特集が組まれることが増えてきたり、「オネエによる悪口の切り返し術」について取材されたり。これって、ドラァグカルチャーの中にある“栄養分”みたいなものが求められているんだと思うんですよ。
―― “栄養分”。
ブルボンヌ そう。オネエの先達たちが、もっと厳しい時代をサバイブしていく中で、生み出していった技術とでも言うのかな。
たとえば、20年前は「このバケモノ」って面と向かって言ってくるような意地悪なお客さんがたくさんいた。そこで、「斜めからおもしろく返して、ぎゃふんと言わせるんだ」って思ったオネエたちがいたから、ウィットある会話術が生まれてきているわけです。
メイクも、いかに性別を自由に越境するかっていうことを追求していった先に、独自の眉メイクや、いまや女子のメイクでも定着してきたコントゥアメイクに代表される、だまし絵みたいなメイク技術が生みだされていったわけですよ。
――注目を浴びているドラァグカルチャーは、すべて必然があって生まれたものだった。
ブルボンヌ まさにそう。そして、その核にあるのは、いかに価値観を転がすか、いかに「なるほど、そんな見方があったのか」と思わせるか、いう精神なんだと思います。