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アルコール依存症の私は、なぜ運転免許を“放棄”できたのか

2020/09/29
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 人気アイドルグループ「TOKIO」の元メンバー・山口達也容疑者が、道路交通法違反(酒気帯び運転)の容疑で逮捕された。一報に触れた時、真っ先に思い出したのは、私がアルコールに溺れるようになり、自主的に運転免許の更新をやめたことである。私は現在、4年4ヶ月に渡って断酒しているアルコール依存症患者だ。山口容疑者はアルコール依存症の疑いが以前から指摘されており、容疑については言語道断である一方、依存症を巡る議論の難しさを当事者として喚起できればと思い、筆を取った。

2018年、会見に応じる山口達也容疑者 ©文藝春秋

現実から酒で“目を逸らした”日々

 もともと酒好きで、大学生の頃から浴びるように飲んでいた。1年365日、休肝日なんてものはインフルエンザにでも罹らない限りなかったのではないか(それすらも怪しい)。お金がなかった若い時期にはわざわざ遠方のディスカウント店まで行って、アルコール度数とリットル、値段を計算し、コストパフォーマンスの高い酒を背負って帰ったものだ。それでも就職し、結婚し、まともに暮らしているつもりだった。

 しかし、徐々に酒量が増えていった。新卒で就職した会社を1年で辞め、地域紙に記者として転職した。いずれ筆一本で生計を立てたいと思っていたので、人一倍努力していたと思う。だが、努力はだんだんと焦りに変わり、また仕事のことを考え過ぎて寝られなくなる日も増えていった。自信のなさと不眠を解決するために酒を飲むようになった。いつのまにか酒は楽しむものではなく、「効能」を得るためのものになった。

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 30歳で離婚した。DVや借金など深刻な問題はなかったものの、私の酒の問題が影響していなかったと言えば嘘になる。「価値観のすれ違い」と言ったらそれまでだが、私は酒を飲むことで生活の問題から目を逸らし、前妻と向き合うことから逃げていた。

 酒を飲むと気が大きくなり、全能感が味わえる。不安が小さなものに思えてくる。仕事に対する自信のなさを忘れ、自分が「何者か」になったかのような幻想に浸れる。離婚してからはさらに酒量が増え、自力ではコントロールできない状態になっていた。

運転免許を更新しなくなったワケ

 離婚する少し前に、編集プロダクションに転職していた。記者だった時代は、毎日のようにクルマを運転し、取材先へと向かっていた。飲酒運転はしたことがなかった。しかし、社用車を駐車場に止めた瞬間にコンビニに駆け込み、酒を飲むことがあった。