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若いオリックスファンを「優勝を知らないまま」にしておいて良いはずがない

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/10/14
note

若いオリックスファンの話を聞いていて思ったこと

  で、司会のブルーウェーブ住川さんに聞いてみた。どうしてオリックスファンになったんですか。「ほら兵庫県の学校ってオリックスの試合の割引券やら招待券やら配ってるじゃないですか」。うんうん、わかるわかる、自分も娘達をそれで京セラドームに連れて行ったもんな。「で、試合を見に行ったんですよ。そしたら谷しか打ってなくて」。わかるぞ、2003年くらいの話やな。「それで谷を一生懸命応援してたら、いつの間にかオリックスファンになってて」。わかるわぁ、その頃、俺、職業柄、具臺晟、応援してたもんな。仕事で神戸にやってきた韓国人の先生、オリックスの試合に連れて行ったら、「何で援護がないんですか!」って怒ってたわ。一試合に29点取られたりして、あのころも辛かったよなぁ。そうか、それで住川さん、谷の背番号ついたユニフォームなんや。で、このトークのどこにオリックスファンになる要素があったんや。ひょっとして、これ笑うところやったのか。流石、大阪は笑いのハードル高いな。

 さて、イベントは主としてオンラインの向こうにいると伝えられる「見えない観客」の皆さんを相手に無事進行し、筆者は夜の道頓堀を歩いて帰った。ふと口ずさむ、大阪人の心のテーマソング「悲しい色やね」。実は神戸生まれではなく大阪生まれの自分である。にじむまち~のひをふたりみていた~♬、ええなぁ、大阪、たまには夜に歩いてみるもんやな。ところで今日、俺ライブ中に何杯飲んだんや。

 そしてふと考えた。そうかぁ、住川さんとかB-モレルさんとかになると、もう物心ついた時に、オリックス低迷してたんやな。優勝から23年も遠ざかってたらそうなるか。思い返せば、1966年生まれの自分が、物心ついたのは川上巨人軍全盛期。阪神は1964年に優勝したきりだったから、この球団は絶対に優勝しないと思っていた。だって生まれてからずっと優勝してなかったんだからそう思うのは当たり前だ。そしてその思いは多くの大阪の人が持っていたと思う。だからこそ1985年、21年ぶりに優勝した時、皆、阪神ファンはあんなに盛り上がったんだ。確かに自分も吉田監督、ひょっとして天才なんやないか、と思ったもんな。

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 そして、あの阪神が優勝しなかった長い長い21年間よりも長い間、オリックスはもう優勝してないんや。人間歳を取ると何だか昔の事も最近に感じるようになるけど、若い人達にとっては23年というのはとても長い月日に違いない。この前に京セラドームで行われた「西本幸雄デー」のイベントでは、若い人達から「仰木は知ってるけど、西本はさすがに知らんわ」という声が飛んでいた。オールドファンから見ると寂しい話やけど、時間の流れというのはそんなもんやと思う。考えてみれば、西本は自分が物心ついた時にはもう阪急から近鉄に移っていたから、若い人達にとっては遠い遠い昔の事でしかない。そもそも今の大学生からすれば、仰木監督の下、野茂が近鉄で活躍していたのすら、彼らが生まれる遥か前の事なのだ。

 だとすると、そのうちオリックスファンの中にも「流石に仰木なんて知らんわ」という声が出てくる日も近いうちにやってくる事になる。そしてそれはスタンドの多くの人が「オリックスが優勝した日」を知らない日がやって来る事を意味している。だからこそ、球団関係者に是非伝えたい。このまま若いオリックスファンを「優勝を知らないまま」にしておいて良い筈がない。だからこそ来年こそは、何とかしてこの道頓堀川に「俺たちのバース」を皆で投げこもうじゃないか。そんな事を思いながら夜の大阪を歩く。しゃーないな、もう一軒を行ってくるかな。

このまま若いオリックスファンを「優勝を知らないまま」にしておいて良い筈がない

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