「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた」の書き出しでおなじみの「週刊文春」名物コラム、「人生エロエロ」。シリーズ単行本の新作『人生エロエロだもの』が発売されました。

 エロ大家のみらうじゅんさんも、まもなく還暦を迎えるとのこと。「週刊文春」現編集長とは、みうらさんがエロまっさりの時代からご縁があり、旧知の間柄だけに、エッセイでも相当の気合いと気遣いをされてきたようです。長年、みうらさんを担当する編集者がいろいろな角度からじんわりお訊きしました。

◆◆◆

ADVERTISEMENT

『人生エロエロだもの』(みうらじゅん 著)

――あ、ちょうど今、「週刊文春」のお原稿を書かれているところですね。締め切りの木曜日に、すみません。

みうら いえいえ。原稿は毎週、火曜日くらいから書き始めているんですが、ある程度書いておいて、木曜日に書き直しているんです。ほかの連載は締め切りのギリギリに書き始めることも多いんですけど、「人生エロエロ」だけは、余裕を持って書き始めないと怖くて仕方ない。きっとこの連載が終われば、余裕のある楽しい老後が送れると思います(笑)。

――毎回、何回くらい書き直すんですか?

みうら 3、4回は書き直しますね。僕は未だに原稿用紙に手書きなもので、右手の小指側が鉛筆で真っ黒になって、机の上にものすごい消しカスが溜まります。エロ話って相手があることだから、ありのままを書けないことも多くてね、そこが「文春砲」とは違うとこですから(笑)。リアルな部分をコミカルにうまくボカして、どうエンタテインメントにもっていくか……というのに悩んでしまって何度も書き直しているんです。

おなじみの書き出しから始まる、週刊文春の連載原稿。

 エロ話をするときって、聞いてる人に合わせるじゃないですか。飲み屋で一緒に飲んでる相手にウケようと思って、脚色したりしますよね。でも、「週刊文春」の読者は何万人もいるから、相手の顔が見えない。だから少しでも多くの人にわかりやすくするためにはどうすればいいかを考え込んでしまって。

――みうらさんのことをよく知っているお友達に話すときは端折れることも、一般の読者に向かって原稿を書く場合は、丁寧に説明しないとわかりにくいこともありますからね。

みうら そうそう、最初は友達にしゃべってる気持ちで書いてしまうので、あとで読み返したとき、「これじゃあ読者はわからない」と思うことがいっぱいあるんです。「週刊文春」の読者の中には、初めてこの連載を読む人もいるだろうし、僕のことをまったく知らない人もいますよね。そういう人にもうまく伝わるようにと考えながら、時間をかけて何度も何度も書き直しているわけです。

――「映画秘宝」の読者だったら、間違いなくみうらさんのことを知っていますけど……。

映画秘宝 2017年 10 月号

みうら そうなんですよ(笑)。「人生エロエロ」でもたまに映画の話を書きますけど、あれって、「映画秘宝」の読者に向けたつもりで書いているんです。だからテンポがいいんですよね。映画専門誌の「秘宝」と違って「文春」は一般誌だし、文春の読者を意識すると、どうしても説明が多い文章になってしまう。それが単行本にするときに気になるので、説明くさい部分をばっさりカットしていて、その作業にまた時間がかかってしまう。

――単行本を買ってくれる読者は、みうらさんが何者かわかっている人が多いので、説明をカットしても大丈夫ですもんね。

みうら そうなんです。でも、設定だけはしっかり描くように心がけていますけど。設定が曖昧で「ウソだ」と思われると、エロ話って途端に面白くなくなるでしょ。出だしから「ないな」と思われると、読む気が失せるだろうから。ある程度まで「本当のことだ」と思わせて、読み終わったところで「これ、だいぶ話を盛ってあるな(笑)」って思われるのが「人生エロエロ」のいいところだと思うんです。エロ話の古典落語を書いているつもりで、「どの時代でもわかるエロネタじゃないと」と思っちゃってるから、またも書くのに時間がかかっちゃって。