初タイトルの防衛率の低さ
14/43。この数字は、初タイトルを獲得した棋士の翌期の防衛率である。これまで43人中14人しか防衛できていない。ここ5年を見ると、初タイトル獲得者は佐藤天彦九段、菅井竜也八段、中村太地七段、高見泰地七段、豊島、斎藤慎太郎八段、永瀬、木村九段、藤井聡太二冠と9人もいる。だが、翌年にタイトルを防衛できたのは、いまのところ佐藤天彦九段の名人のみ。2018年には八大タイトルを8人で分け合う状況が生じたものの、タイトルホルダーが変わり続けている。今年でいえば、叡王戦が長期戦になったことで、8月に王位戦が先に決着したが、木村一基王位は藤井聡太棋聖に敗れた。
挑戦側は勢いがある状態で番勝負を迎えられても、防衛側は必ずしもそうではない。不調でも防衛戦は必ずやってくる。助走が足りない状態で幅跳びをしないといけないこともあるのだ。また、前年に有効だった戦術がずっとうまくいくとは限らない。近年は将棋ソフトの影響もあり、流行のサイクルが早くなっている。
永瀬は棋聖戦と王位戦で挑戦者決定戦に進出。四冠王を狙うこともできたが、藤井二冠に連敗したのは痛かった。それでも、7割を超える高い勝率を挙げている。豊島は2018年に初タイトルの棋聖を獲得。それ以降は、挑戦したタイトルをすべて奪取しているが、防衛戦は負けており課題となっている。
水面下で激しいせめぎ合いが始まっていた
昼食休憩後の永瀬の一手に豊島は大長考に入った。時間がピタッと止まったかのように局面が進まない。通常よりも手得した条件の良さを具体化させたいし、永瀬はそれを阻もうとしている。水面下で激しいせめぎ合いが始まっていた。
午後3時、対局者におやつのプリンが出されると、永瀬はすぐに手をつけた。豊島はまだ考えている。午後3時30分過ぎ、2時間以上考えて最強の手段に出た。腰掛け銀が立ち上がり、相手の腰掛け銀に頭突きをする反撃。以前、「ぎりぎりの局面に踏み込まないと勝てないと思って指している」と豊島が述べていたのを思い出す。大きな決断を下し、ようやくプリンに手をつけた。
写真=君島俊介
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