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「地獄への入口」だった福島第一原発 尿意に襲われた初出勤の顛末

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#6

2020/10/18

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

note

原発作業員がもつ様々な資格

 原発作業員は様々な資格を有している。一例を挙げれば、プラント配管計装士、危険物取扱者、消防設備士、核燃料取扱主任者、第一種放射線取扱主任者、第二種放射線取扱主任者、第一種作業環境測定士、エックス線作業主任者、ガンマ線透過写真撮影作業主任者などだ。

 特別技能の他にも、足場組立等作業主任者技能講習、玉掛技能講習、小型移動式クレーン運転技能講習、フォークリフト運転技能講習、ガス溶接技能講習、高所作業車運転技能講習、電気工事作業指揮者教育、石綿使用建築物等解体等業務特別教育、粉塵作業特別教育、高圧端末処理技量、低圧・計装端末処理技量、ハンダ付コネクタ処理技量、圧着コネクタ処理技量、EHC配管組立技量、後打アンカ技量、ろう付け継手技量、圧着端子圧着作業、締結作業など、数々の講習を受けなければならない。

 私以外の作業員はみな、九割九分原発経験者だった。1Fを生業とする業者はもちろん、複数の原発を渡り歩く職人たちがほとんどだ。周囲から“ドル箱スター”と呼ばれていた作業員ですらかなりの講習を受け、いくつか資格を持っていた。ドル箱とは会社の取り分が多く、手取りが少ないという意味で、使えない社員に対する蔑称だ。

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(著者提供)

 作業員の日当は直接雇用してくれる会社との間で決める。上会社の者ほど高い給料をもらっているわけではなく、同じ会社の同じ職種でも、個人によって手取りには格差がある。安い賃金で雇用されたドル箱スターたちであっても、私よりは使える。平時なら素人に出る幕はない。

 走ろう。そう思った。

 たくさん汗をかけば、膀胱にたまった小便が汗となって排出されると思ったからだ。

「会いたかったぁ~、会いたかった~、会いたかった~、イエス!」

 行きがけのバスで聴いたAKBを熱唱しながらやけくそで踊り、床を掃いた。

「ふざけない!」

 同僚から𠮟咤され、歌はやめた。股間がじんわり温かくなってきたのが分かった。 

作業後、シェルターに戻る作作業員たち(著者提供)

 タイベックに染みはできたが、靴までは垂れなかったので、放出したのはわずかだったと思う。初勤務で失禁するという失態は、しかし、誰にもばれなかった。作業を終えシェルターに戻って来る作業員は、みな汗でべちゃべちゃで臭いからごまかせた。綿手袋の上に二重にはめたゴム手の中は、逃げ場のない汗で、握ると、ぐちゃっと音がしたし、支給される肌着の上下は、まるでプールに飛び込んできたときのようにずぶ濡れだった。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売

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