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「フクシマ50」の中にもヤクザはいた 原発事故の“英雄たち”は月給100万円

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#7

2020/10/25

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

情報を漏らさないフクシマ50

 俗にいう『フクシマ50』の定義はひどく曖昧である。一般的には「東日本大震災によって発生した“想定外”の津波が1Fに来襲し、冷却システムがダウン、1号機および3号機が立て続けに水素爆発をした後、1Fに残った職員・作業員」となろう。インターネットのフリー辞書であるWikiにもある程度の記述がある。サイトには関係者の大半が避難するなか、死を覚悟して原発の収束作業に当たった50人……実際の総数は約70名だったと書かれており、取材の印象でいえば、その程度なら信用してもいい。

 ただ、東電は免震重要棟で指揮を執った吉田昌郎所長(当時)以外のメンツを、プライバシー保護を理由に公開していない。東電社員の内訳、協力企業の人数や年齢、支給された危険手当の金額など、よく分かっていない部分が多い。噂が一人歩きをしてしまい、神格化されている部分はある。東電としてもフクシマ50を曖昧なままにしておきたいはずで、世間が彼らの英雄的行動を賞賛することで、原発事故への批判が多少でも薄まればありがたいだろう。

 当時、私が把握していたフクシマ50は彼だけだった。その後、吉田所長以外の4名から話を訊けたが、うち2名は私をフリーライターと認識していない。あえて隠しているわけではない。問われないから言わない。これまでさんざん情報を隠蔽してきた東電からアンフェアと批判されても、私はまったく平気である。

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 ともかく……フクシマ50とようやく連絡が取れても、大方、口が堅い。会社員である以上、おそらく雇用者から「情報を漏らさない」ことを約束する書面を渡され、詳しい説明のないまま流れ作業的にサインしているはずだ。筋を通し、会社に殉じる生真面目さは尊重する。が、多くの人間を苦しめ、生活を破綻させ、世界を汚染した事実を考えれば、そんな一筆は社会全体の利益の前には無効である。具体的には裁判になってもかなりの確率で勝てる。公共の利益が会社の損失に優先するのは明白だ。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 そう説得はしても、フクシマ50はたいてい、カミングアウトをためらった。オフレコで……と釘を刺されているなか、噓を書くわけにはいかないので茶髪の責任者の他、3名の詳細は割愛する。