放射能を吐くゴジラ
佐藤がようやく話し始めたのは、出会いから1カ月ほど経ったある夜からだ。その日の夕方、JR湯本駅の近くの居酒屋でビールを数杯飲んだ後、歩いて5分ほどの距離にある居酒屋で痛飲した。
「俺、ここにボトル入ってるんで安く飲めるんです!」
そう言われて入店したのに、佐藤は自分がなんという名前でボトルをキープしたのか忘れていた。仕方がないので新しく芋焼酎のボトルを注文し、「がんばっぺ、いわき」とピンクの文字でプリントされたTシャツを着ているホステスたちを相手に吞み始めた。最初からペースが速く、1時間もしないうちにこちらが潰れ、ホステスにも犠牲者が出た。
不覚にも1時間ほどボックス席で爆睡していたら、夢の中で『湘南乃風』がきこえてきた。ふと我に返り目を覚ますと、マスターから借りたアロハシャツ姿でマイクを握りしめ、熱唱する佐藤の姿が目に入った。
「はっはっは、鈴木さん、やっと起きましたか。てんでだらしないですね」
そのまま2人で肩を組み、腕を振り上げながらカラオケを熱唱する。クーラーがガンガンに効いた部屋なのに、額に汗がにじむ。
「暑い!」
「まだまだ、1Fの暑さはこんなもんじゃないですよ」
30分後、私は佐藤を担ぎ、必死で旅館の駐車場まで運んだ。足がぱんぱんで、もう一歩も進めず、アスファルトの上に佐藤を降ろす。
「佐藤さん、大丈夫? 歩ける?」
「コーラ飲みたい。飲めば復活する」
フロントでコカ・コーラのペットボトルを買って駐車場に戻ると、佐藤は胃の中の酒をすっかりはき出していた。口から出た吐瀉物(としゃぶつ)が坂道に沿って広がっており、まるで放射能を吐くゴジラである。こちらも酔いが回っていたので、思わず笑ってしまった。
「佐藤さん、大丈夫? 喉に詰まらせたら死んじゃうよ。放射能じゃなく酒で死んだらかっこ悪いじゃん」
「コーラ……放射能に効くんだってさ。これ飲んでまた明日1Fに行く」
コーラが放射能に効くというのは、完全なる勘違いである。それは膣内射精した後、コーラで洗浄すれば避妊できる……という中学生レベルの話に近い。
ただ、強がっている佐藤にも、少しは恐怖心があるんだろう、と感じた。夜空の月に雲がかかり、まるで吐瀉物まみれの佐藤のようだった。