30年近くヤクザを取材してきたジャーナリストの鈴木智彦氏は、あるとき原発と暴力団には接点があることを知る。そして2011年3月11日、東日本大震災が起こった――。鈴木氏が福島第一原発(1F)に潜入したレポート、『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)より、一部を転載する。(全2回の1回目/後編に続く)
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茶髪のフクシマ50
時間通りに老舗旅館に着くと、フロント脇の応接セットに茶髪の若者が座っていた。時々こちらをのぞき込む。まだ若い。20代だろう。
責任者の姿を探す。それらしい人はいなかった。10分、20分……約束の時間を過ぎても、ピンク色の腕時計を見つめたままの茶髪君しか見あたらない。30分ほどたって、ようやくピンと来た。
「あれ、もしかして……」
「えっ、鈴木さん……ですか?」
初対面の責任者は、こちらの目を見ようともせずはにかんだ。
「責任者っていうから……こんなに若いと思わなかった。ごめん」
「俺も東京からやってきて、初めて原発で働く人が、作業着に安全靴だとは思わなくて……てっきり背広かなんか着てるんだと思って……」
若い茶髪の責任者は、「とりあえず、鈴木さんの部屋に行きませんか」と提案した。拒否する理由はないので、2人で501号室に上がった。広い。20畳はある。
「7月10日の夕方に、この部屋に来て下さい。O社(G社の上会社)の鈴木っていえば、フロントで鍵もらえます。あとのことはその時説明します」
「了解!」
おどけて若い責任者に敬礼した。
「プファッ~」
責任者はやっと笑った。
そこから小一時間ほど世間話をした。話題は私の過去についてだった。
「いつもはなんの仕事をしてるんですか?」
どう答えていいか悩んだ。軽いジャブで応酬した。
「俺の仕事? ゆすり、たかり、恐喝」
「マジっすか?」
取材対象が暴力団なので、とっさにそう噓をついた。
「いや、でも実際いつもそんな感じの場所にいる」
「なのに作業着似合いすぎ、です」
「形から入るのが詐欺師のやり方だもん」
「クックック。すげぇ、なんかすげぇ感じです」
責任者は、右腕で両目を覆いながら、純朴な仕草で笑った。
「そうだ。俺、会社から名刺作ってもらったんです」
受け取った名刺には、G社の会社名の下に『FUKUSHIMA 50』と印刷してあった。
「えっ? フクシマ50なの?」
「一応、です」