山口組が割れてすでに5年になる。「山口組」、「神戸山口組」、「任侠山口組(現・絆會)」と3団体の分裂状態はいまも続き、これは「山一抗争」の4年8カ月を上回る。2019年には、10月に神戸山口組系の山健組組員2名が射殺され、翌11月にも尼崎で神戸山口組幹部の古川恵一が自動小銃M16の掃射を浴び、蜂の巣銃殺に処された。令和を迎えて、侠客と呼べるやくざはいるのか――元山口組系組長の竹垣悟氏の著書『山口組ぶっちゃけ話 私が出会った侠客たち』より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目。#2を読む)
逢魔が時の惨劇
その日、いつもと変わらぬはずの街が一瞬にして恐怖に包まれた。
2019年11月27日午後5時ごろ、尼崎中央商店街近くの路上で神戸山口組幹部で3代目古川組元総裁の古川恵一が射殺された。至近距離から機関銃のようなもので撃たれており、13発の銃弾が体を撃ち抜いていた。左腕を中心に腹、頭をひどく損傷し、ほぼ即死の状態だった。
逮捕された朝比奈久徳容疑者は山口組傘下の2代目竹中組の元組員で、事件の約1年前の2018年12月付で破門された男であった。また、所持していたことから、犯行に使われたのはアメリカ製自動小銃「M16」であることが判明したのだった。
街中で暴力団幹部が「蜂の巣銃殺」されるという、まるで映画のような惨劇は、やくざ界のみならず、社会に大きな衝撃を与えた。死亡した古川恵一は私が在籍した初代古川組・古川雅章組長の実子で、渡世での「甥」にあたる。それだけに、私もこの事件には思うところは大きい。
私が恵一の訃報を知ったのは新聞社からの問い合わせの電話だった。
「尼崎で古川恵一が射殺されました。警察情報で殺(や)ったのは竹中組の者だというのですが、確認できませんか?」
時刻にして事件発生から約1時間が過ぎたころ、現場から逃走した容疑者が京都南インター付近で発見され、警察相手に大立ち回りを演じた直後のことである。明日の朝刊に間に合わせるため、記者は確認作業に追われていた。
「容疑者は朝比奈という男なんですが……」
告げられた名前に心当たりはない。それより私の胸裏にはあきらめにも似たどんよりした空気が広がっていた。
「やっぱり殺られてしもうたか……」
これが正味、そのときの気持ちである。当時の恵一はそれほど苦しい立場に置かれていたのである。
この事件が山口組の分裂劇に端を発していることは論を俟(ま)たないだろう。