能力の鍛え方に踏み込んだ『超クリエイティブ』
――普通のビジネスパーソンでも身につけられるのでしょうか。
三浦 本書『超クリエイティブ』では、表面的なHow toではなく、誰もが体得できるよう、能力の鍛え方に踏み込みました。GOのコピーライターがある仕事で「価値とは答えではなく力である」というコピーを書いているんですが、答えは手渡されて終わってしまうものですが、答えを出す力を身につければ自ら別の課題で、別の答えを出すことができる。その意味で本書は、〈答えではなく力を与える〉本です。
ちまたでよくある「5W1Hで企画を考えよう」みたいな小手先のことは書いてありません。クリエイティブとは何か、クリエイティブ史から導かれる本質的な叡智は何か、どうすれば本質発見力からコアアイデアを生む思考法を鍛えられるかを、実践的に伝えています。
――古典を重視しているのもその一環でしょうか。
三浦 そうです。人間の普遍的な感情のデザインや、感情をマネージメントする技術はさまざまな文学が深く描き出してきたことですが、古典は人間の生き方や本質の洞察において、いわば歴史という決勝リーグを勝ち残ってきた本です。そもそも新しいコンテンツばかりを追いかける読書はコスパが悪い。半年経ったら役立たない内容かもしれないですから。すぐれた古典こそクリエイティブに必要な思考の型をインストールするのに大きく役立ちます。
たとえばサン・テグジュペリの『人間の土地』は極限の状況下における人間の根源的な力への信頼、仕事に対する責任感という高潔な心のありようを教えてくれますし、サルトルの『実存主義とは何か』なら、人は自分のあり方を自分自身で決めることができるという、根源的な思考の型を教えてくれます。あるいはレヴィ・ストロースの『野生の思考』は、構造主義という、社会のパラダイムに立ち向かって世の中を動かすクリエーションがしたかったら、絶対に知っておいたほうがいい思考の型が学べます。
クリエイティブになることでしか世界で勝ち目がない
――こうした歯ごたえのある古典的名著がビジネスの前線でも役立つんですね。
三浦 結局、歴史をくぐり抜けてきたすぐれた名著から学んだほうが応用範囲が広く、人間の普遍的な感情にアクセスするクリエイティブな力が最短距離で身につきます。
僕は、ポストコロナ時代において、日本はクリエイティブ大国になることでしか世界における勝ち目がないと思っています。資源や人口という量的なものによる勝負、あるいは単なる技術革新の追求では活路が開けない。むしろ美意識や、倫理観、創造性というソフトパワーにこそ強みがあるのです。
そこにあるものや、現象に対して新しい意味を持たせる力――何の変哲もない茶碗に「わび・さび」という世界がそれまで全く知らなかった概念で、深淵な価値をつくり出した千利休の「見立ての力」のように、別の価値をつくり出すクリエイティブな力こそが、今後僕たちが豊かに生きていくための最大の武器になると思っています。「小さきものはみなうつくし」から「陰翳礼讃」、あるいは村上隆のスーパーフラットまで、日本オリジナルのクリエイティブな視点は新しい価値を生み出す源泉となってきた。