では、行政サービスについて、協定書には実際にどう書かれているのか。
障大連「そこが極めていやらしいんですよね。
『特別区の設置の際は、(中略)その内容や水準を維持するものとする。』と書いてある。
ところが『特別区の設置の日以後』は『その内容や水準を維持するよう【努める】ものとする。』という書き方なんです。
公務員がわざわざ努力義務として書き込む時は『できない』と言っているに等しい。彼らもできないと分かっているからこそ、そのような表現になる訳です」
公務員として文書を作った経験もある筆者とすれば、これは決して穿ち過ぎた見方ではない。将来を確約できない時に使う表現である事は確かだ。
隣接する市に、影響が広がる可能性も
ところで、今回投票できるのは大阪市民だけだ(*1)。それ故この問題を扱うことに対しては、大阪府内の障害者である筆者でさえ「差し出がましいのではないか」という躊躇もあった。まして府外や健常者の人からすれば、そもそも自分が意見や賛否を表明して良いのかすら分からないだろう。大阪市民としてはその点をどう考えているのか。
障大連「大歓迎です。色々な人の意見が入って、もっと議論が深まれば良い。影響は大阪市民に留まらないからです」
どういうことか。
障大連「まず大阪市の隣に住む人には直接的な影響があります。大阪市が特別区になれば、隣接する市は市議会と府議会の賛成で特別区に移行できるようになるし、住民投票も省略できる(*2)。他の道府県にしても、大阪府のように政令市から財源や権限を吸い上げようと動き出すかもしれません。
そうなれば、それらの市の方も私共と同じような問題に直面することになります」
影響はより身近な形でも及ぶ。
障大連「『障害者は施設や親元で暮らすのが当然』とされていた頃から、大阪市では地域での共生を実践してきました。障害者福祉の分野ではモデルケースであり続けてきたんです。大阪市が前例を作り、国や他自治体の制度がそれに追随する事で全国の水準を引き上げてきたつもりです。
当然その逆もある。大阪市で水準がどんどん切り下げられていけば、それが悪しき前例になって他自治体も追随する可能性があります。
これは何も障害者施策に限らず言えることです。全国一律と思われている介護保険制度ですら自治体によって運用や基準が全然違います。
都構想が実現すれば、高齢者や子育てへの支援も含む福祉政策全般に甚大な影響があり、全国に波及しかねない。ですから今回の問題は誰一人無関係ではありません」
高齢者が受けられる介護サービスの上限や種類の制限にも、実際は地域間格差があるという。子育て支援についても同様だ。
*1……ただし日本国籍を持つ者のみ。
*2……大都市地域における特別区の設置に関する法律 第13条第2項。具体的な手続きについては同法第4条から第9条に定められている。